通り雨
薄暗い空に突然の閃光!
すぐに「バリバリ」という轟音が響く。
そして、あっという間に滝のような雨。
すぐに自転車を銀行の玄関ポーチの下に止めたけど、髪の毛から水滴がしたたり落ちるほどに濡れてしまった。
急な雷雨に注意って天気予報で言っていたけど、こんな時だけ的中しなくても良いのに!
銀行はもうシャッターが降りていて、中には入ることはできないけど、とりあえず広い庇のお陰で雨に濡れずに済みそうだ。
学校から出たとたんの豪雨で、この中を家まで帰る自信はない。
きっと通り雨だ。
小降りになるまで、ここで雨宿りしよう。
男の子が一人、私が雨宿りしている銀行の庇に走り込んできた。
同じ学校の制服だと思ったら、同級生の今井君だった。
今井君もすぐに私だと分かったみたいで、まぶしい笑顔を見せてくれた。
せっかく落ち着いてきていた私の脈拍がまた高まってきた。
「松本も雨宿りか?」
「う、うん」
今井君は、全身びしょ濡れで、ワイシャツの下に着ている黒のTシャツが透けて見えていた。そして、シャツが体に張り付くようになっていて、陸上部で鍛えている細マッチョの体が強調されていて、ちょっとドキドキする。
ふと、気づいて、自分の体を見下ろしたけど、大丈夫。制服が透けるほどは濡れていない。
今井君にばれないように、ホッと吐息を漏らす。
「俺もそこのバス停で待っていたんだけど、傘を持ってなくてさ。学校に戻ろうかとも思ったけど、こっちの方が近いと思って、全速で駆けてきたけど、びしょ濡れになっちまった」
「ハンカチ持ってないの? 風邪、引いちゃうよ」
「持ってるけど、たぶん、拭ききれないよ」
「私のハンカチも使って」
スカートのポケットからハンカチを取り出して、今井君に差し出した。
「松本のハンカチかあ。なんか良い匂いがしそうだな」
「な、何を言ってるのよ!」
「はははは。まあ、このまま気合いで服を乾かすよ」
今井君はスポーツ万能だし、勉強もできるし、話してて面白いから、うちの学校の女子みんなの憧れだった。
私もこの四月から同級生になったけど、その日のうちに今井君のファンになった一人だ。
クラスでは同じ話の輪の中で馬鹿話もできるのに、こうやって二人だけのシチュエーションだと何を話して良いのか分からない。
でも、今井君は普段どおりの調子だ。
そうだよね。私の今井君に対する想いと今井君の私に対する想いは釣り合っていなくて、私は大勢いる女友達の一人にすぎないはずだ。
でも、良いんだ。
今井君の笑顔が見られるだけで幸せな気分になれるから。
「なあ、松本」
「な、何?」
「松本って、中学、東中だったよな?」
「そうだよ」
「じゃあ、小野寺のこと、知ってる?」
「う、うん」
小野寺さんとは中学校でずっと同級生で、今は同じ高校の別のクラスにいるけど、昔から美人で、今の高校でも男子の人気を独占しているはずだ。
今井君も気になっていたんだ。
「俺の友達がさ、小野寺のこと、すごく好きで、告白しようかって思っているみたいなんだけど、小野寺って、彼氏、いるの?」
「たぶんだけど、いないと思う。クラスが別れてしまったから、ちゃんと話はしてないけど」
「そっか。じゃあ、当たって砕けろって、友達に言ってみるよ」
「う、うん」
本当に友達の話? もしかして、今井君自身のことじゃないのかな。
「松本は彼氏、いないの?」
「えっ?」
突然の質問に私は固まってしまった。
「い、いないよ! いるはずがないよ」
「そうなのか? ちょっと、安心したな」
「はい?」
「俺、松本みたいな女の子がタイプなんだよね」
「……」
「あっ、でもこれ告白じゃないから! 何というか、松本と話していると面白いし、これからも友達として、いろいろと遊ぼうぜ」
友達として……。これ、振られたの?
でも、タイプって言ってくれたし……。
「う、うん。これからもよろしくね」
「ああ! よろしく!」
ちょうど、雲の切れ間から太陽が顔を見せた。
「おっ、雨、あがってきたな」
「そうだね」
「次のバスに間に合いそうだな。じゃあな、松本」
敬礼のように腕を振ってから、今井君はバス停に向かって小走りに去って行った。
もう! 私の心を勝手にかき乱しておいて、さっさといなくなるんだから!




