通学電車でラノベのような恋を
午前7時12分発の快速に乗らなければいけないって言うのに、うちのボロ目覚ましときたら、まったくもう! 本当に鳴ってるの?
お陰で、今日も駅まで猛ダッシュ!
改札を入ると、人混みの中を、後ろから3両目の前から2つ目のドアが止まる場所まで、ホームを早足で移動する。
ちょうど、やって来た電車に飛び乗って、いつもの場所をキープ。
反対側のドアから右に2番目のつり革。そこが私の指定席。
ブックカバーをかけた読みかけのラノベを鞄から取り出し、鞄を両足の間に置いて、息を整えていると、次の駅に着いた。
ホームに並んでいた、いくつかの行列が過ぎていき、一番前に彼が並んでいる行列の前で電車が止まった。
開いたドアから一斉に乗客が乗り込んでくる。一番最初に乗り込んできた彼が、私の左隣のつり革に掴まったことを横目で確認。
今日も平常運転!
ドアが閉まると電車が発車した。揺れた勢いを利用して、彼の方に上半身を近づける。
一瞬、良い香りがした。
――コロン、付けているのかな? 何と言うコロンだろう?
私は、変な匂いしてないよね。朝シャンしたし、コロンも付けてるし、歯も磨いたし……。
あっー! さっきのダッシュで汗かいてた! やばい! 本当に大丈夫かな、私?
横目で彼を見てみると、別に顔をしかめているようでもないし、……大丈夫……かな?
でも、どこの学校なんだろう?
彼が着ている制服のデザインを友達に話してみたけど、誰もどこの学校の制服か知らなかった。
私と同じく終点で降りるけど、別の乗り継ぎ電車に乗っているみたいで、改札を出てからは離ればなれ。学校がなかったら、跡をつけて行っちゃおうって思ってるくらいだよ。
また、次の駅に着いた。ここでも、どんどんと乗客が乗り込んでくる。
――何だか、今日はいつもより近い!
乗り込んできた乗客に押されて、肩と肩が触れあうくらい近くに彼が立った。
――けっこう背が高いんだ。
駄目だ。ドキドキしてきた。
さっきから開いてるラノベ、全然、読めない。それどころじゃない。
これからずっと、こんな気持ちで通学しなきゃいけないのかな?
彼と話ができるきっかけが欲しいよお。
でも、いきなり「こんにちは」って話し掛けるのって不自然だよね。
ハンカチとか落として拾ってもらって、お礼かたがたお話をって。…………でも、彼が拾ってくれるとは限らないからなあ。隣のたばこ臭いおじさんに拾われたら、ハンカチまでたばこ臭くなりそうで嫌だなあ。
えっ! ――――急停車!
つり革つかまってたけど、私はよろけて彼の足を踏んでしまった。
……最悪!
「ごめんなさい」
私は思わず彼の顔を見上げた。視線の先には笑顔の彼。
彼の視線が一瞬、私の手元に下がってから、また、私を見た。
「それ、面白いよな」
このラノベ。最後まで読めそうにない。