歩幅を合わせて
「愛! 速く!」
淳が私の手を引っ張って、人気のアトラクションに向かって走って行く。
「待って! そんなに走らないで!」
「早く並ばないと、すぐに列の後ろになっちゃうぞ!」
「胸が痛い!」
「えっ?」
驚いた淳が私の手をはずして立ち止まった。
「息が切れて苦しいよ」
「ご、ごめん」
悲しげな顔をして謝る淳に、私は、息を整えてから、「ううん。淳の気持ちは嬉しいよ」と笑顔を見せた。
クリスマスイブのテーマパーク。
色とりどりのイルミネーションが輝き、人気のキャラクターが愛嬌を振りまきながら園内を回っていた。
そんな夢の世界に包まれていたいと思うのは私達だけではないはずで、園内は大勢の人で混雑していた。
当然、人気のアトラクションには長蛇の列ができていた。
このテーマパークには何度も来たことがあるけど、クリスマスイベントは初めてだと淳に言うと、淳は以前に家族と一緒に来たことがあるらしくて、見所の場所やお勧めのアトラクションをピックアップした「クリスマス大作戦」なるメモを作り、「この順番で回ろうぜ。愛にも俺と同じ感動をしてもらいたいからさ」と張り切っていた。
淳とは、高校一年生のクリスマスに告白されて、つきあいだしてから、もう一年になる。
小さな頃から、のんびり屋と言われて、少し間延びしているように話す私のしゃべり方が可愛いと、淳は言ってくれた
慌てん坊の彼とのんびり屋の私。
つきあいだした頃には、どうせ長続きしないとクラスで噂になっていた。確かに、淳は、たまに私を置いて、一人、空回りしていることがあった。
でも、淳は、何でも私のことを第一に考えてくれて、私が喜ぶだろうと思ったことは、一生懸命にやってくれた。
「もう、息は戻った?」
「うん。ごめんね、淳」
「い、いや。俺もちょっと気が焦っちゃって……。ごめんな、愛」
私は少し吹き出した。
「何だ?」
「そういえば、昨日もこんなやり取りしたなあって思いだした」
「そ、そうだったな」
淳が私の心を探るように上目遣いで私を見た。
「呆れてるだろ?」
笑いながら、「うん」と答えた私は、「でも、淳と一緒にいると楽しいし、淳のこと、大好きだよ」と首を傾げて淳を見た。
落ち込んでいた淳が一瞬で復活したのが分かった。
「じゃあ、行こうか? 今度は、ゆっくりと行くよ」
「うん。ねえ、淳。左手の手袋、取って」
「あ、ああ」
淳が左手の手袋を取ると、私は右手の手袋を取って、淳の左手を握った。
そして、淳のコートの左のポケットに握ったままの手を入れた。
「こうやって、一緒に行こう」
「そ、そうだな」
なぜか焦った様子の淳だったけど、すぐにその訳が分かった。歩きだすと、右手に何かが当たった。ポケットの中に何かがあった。
「何か入ってる?」
「まさか、こんなに早くばれちゃうとは思わなかったよ」
大きなポケットの中で手をはずした淳が、その「物」を私に握らせた。
「出してみて」
ゆっくりと私が手を出すと、リボンが付いた小さな四角い箱だった。
「何?」
「俺からのクリスマスプレゼント」
「私に?」
「決まってるだろ。一応、バイト代、三か月分。本当は花火を見てる時に渡そうと計画してたんだけど」
私はその箱を淳のコートのポケットに戻した。
「えっ?」
「じゃあ、その時にもらうね。だって、淳が一生懸命に考えてくれた計画を台無しにするわけにいかないもん」
「そ、そうか。一瞬、いらないって言われた気がして焦った」
「……淳」
「うん?」
「淳がアルバイトを頑張ってもらったお金は、淳が自分のために使って」
「お、俺は愛にプレゼントをしたいんだ」
「ううん、いらない。だって、一年前にもらったプレゼントをずっと大切にしたいから」
私は、淳の左手をまた握って、淳のコートのポケットに入れた。
「サンタさんがくれた最高のプレゼントが、私を置いて行っちゃわないように、いつも手をつないでいたいな」