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ゲームは終わり、恋が始まる!

「ありがとうございました!」

 ホームベースを挟んで一列に並んだ選手達がお辞儀をしてから、三塁側のベンチ前に駈けて行って、今度は観客席に深くお辞儀をした。

 三年生の先輩方にとってはラストゲームだったけど、十五対二という惨憺たる結果だった。

 我が校は、昔は県大会で優勝をしたこともあるようだけど、ここ最近は一回戦敗退がほとんどだった。

 でも、先輩方も頑張ってくれて、今回は二回戦まで進んだ。二回戦の相手は優勝候補筆頭の強豪校で、その相手に二点も得点できたことは自慢して良いはずだ。

 そういうこともあって、三年生の先輩方にも涙はなかった。

「みんな、お疲れ! 帰りにいつもの所に寄っていくぞ!」

 キャプテンの春川先輩の言葉に、部員全員が「おう!」と答えた。



「いつもの所」とは、自分達の学校最寄りの駅の近くにあるお好み焼き屋さんのことだ。

 さすがに毎日は無理だけど、週に一回は、部活後にここに寄っていた。

 試合があった球場から電車で帰ってきて、ユニフォーム姿のままの十九人の部員達とマネージャーである私の計二十人が座敷の会場に上がった。

 あらかじめ帰りに寄るからと予約をしていて、座敷は貸し切り状態だった。

「二回戦まで行ったお祝いに、一人に一本ジュースをおまけだ!」

「あざーす!」

 店主のおじさんも、ずっと我が野球部を応援してくれていて、嬉しそうだった。

 四人ずつ五つの鉄板付きテーブルに別れて座ることになるが、私は、いつもどおり、ささっと春川先輩の隣に座った。

 ボウルに入ったお好み焼きの具材が運ばれてきた。

 私がそれを取ろうとすると、春川先輩が先に取り上げた。

「今日も俺が焼くよ」

 春川先輩は、いつも後輩に焼かせることなく、自分で焼いていた。自称「お好み焼き奉行」だから、自分の「お好み」に焼きたいからだそうだけど、きっと、後輩たちに負担を掛けさせないための冗談だと思う。

 汗を掻き掻きお好み焼きを焼く春川先輩の笑顔は、明るい性格がそのままにじみ出ているみたいで眩しかった。



 私自身は中学の時に女子ソフトボールをやっていたけど、近所には、女子ソフトボール部がある高校がなく、今の高校に入学してからしばらくは帰宅部だった。

 だけど、放課後にいつも大きな声が響いてきていた野球部の練習を見学して、その声の主であった春川先輩に一目惚れしてしまった。できるだけ春川先輩と同じ時間を過ごしたくて、野球部のマネージャーになった。

 昨年の県大会が終わって、二年生だった春川先輩がキャプテンになってから、野球部の雰囲気は更に良くなった。でも、和気あいあいということだけではなく、本気で勝ちに行くという気概が満ち溢れていた。それが久しぶりの二回戦進出という結果につながったんだと思う。

 そんな春川先輩には、自分の気持ちを告白していなかったけど、私は、気がつくと、いつも春川先輩の近くにいた。

 キャプテンとマネージャーという間柄で、他の部員よりも近くにいることは自然だから、私の本当の気持ちは、春川先輩にも、他の部員の誰にもばれていないはずだ。

 でも、春川先輩は今日を最後にユニフォームを脱ぐ。明日からは毎日会うことはできない。

 きっと、我慢できなくなるはずだ。

 春川先輩が卒業するまでには、絶対に告白しようと心に決めていた。



 全部のテーブルのお好み焼きが焼き上がった頃、プレゼントされた缶ジュースを持って、春川先輩が立ち上がった。

「みんな! 今日はお疲れ! 二回戦まで進むことができて、満足はしていないけど、悔いはない! 俺たち三年生は今日を限りに引退するけど、二年生と一年生は、三回戦進出を狙って、これからも頑張ってくれ!」

「おっす!」

 二年生と一年生が元気に返事をした。

「じゃあ、かんぱーい!」

 みんなが缶ジュースを掲げた。

「広瀬も今までありがとうな!」

 座った春川先輩が私に缶ジュースを差し出しながら声を掛けてくれた。

「い、いえ」

 何か、そのひと言だけで涙が出て来た。

「おいおい、春川! 広瀬を泣かすなよ」

 同じテーブルの三年生部員達がニヤニヤと笑いながらヤジを飛ばしてきた。

「ち、違います! 私こそ、春川先輩や皆さんと一緒にクラブができて、本当に楽しかったです! でも、明日から三年生の皆さんが部活にいらっしゃらなくなるのが寂しくて……」

「部活は引退だけど、卒業まではまだ学校にいて、顔を会わせるんだからさ」

「そうですけど……」

「そうだ! 今までのお礼の気持ちを込めて、三年生で広瀬に何かプレゼントしようぜ!」

 春川先輩が他のテーブルにいる三年生部員にも聞こえるように大きな声で言った。

「そうだな! 女子マネージャーがいるって他のクラブの連中からも羨ましがられたからな」

「そうそう! 鼻高々だったよな!」

「お前の臭い靴下もちゃんと洗ってくれたもんな」

「臭くて悪かったよ、広瀬」

「本当だぜ。よく気絶しなかったもんだ」

「うるさいよ!」

 三年生部員と冗談を言い合っていた春川先輩が首を傾げるようにして私を見た。

「広瀬、何が良い?」

「そのお気持ちだけで十分です」と答えたが、「そういうわけにはいかないよ」と、三年生みんなが言ってくれた。

「俺たち、少しずつお金を出すから、春川が広瀬と一緒に買いに行ってあげなよ」

「良い考えじゃん! そうしろよ、春川!」

「それが広瀬には一番のプレゼントだろうしな!」

 春川先輩以外の三年生部員が口々に言った。

「じゃあ、そうするか、広瀬?」

 嬉しそうな春川先輩と目が合った。

 ――あれっ、ばれてる?

 

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