表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/70

雨がやむ前に

 吹奏楽部の練習が終わって、クラリネットをケースに仕舞っていると、先に楽器を仕舞って、窓の側に立っていた千鶴が、私の方に振り返りながら訊いてきた。

「とも。雨、降ってるよ。傘、持ってる?」

 窓の外を見ると、細かい雨が降っていた。

「持ってるよ。ちづは持ってないの? 入れていってあげようか?」

「おお! ともとの相合い傘は嬉しいけど、残念ながら、私も持ってるんだ」

「な~んだあ。……でも、私が持ってなかったら、入れてくれるつもりだったの? 帰る方向が全然違うのに」

「もちだよ。今度、相合い傘しようね」

「はははは。ば~か」

 ちづが外を見ていた窓の隣の窓の前には、中村先輩と名倉先輩が立って、窓の外を見ていた。

「参ったなあ。俺、傘、持ってきてないぜ」

「俺が入れていってやろうか?」

「お前、全然、方向違うじゃん。それに、中村と名倉はホモ達だなんて噂が立ったら嫌だからな」

「俺は全然構わないでえ~、中村く~ん」

 名倉先輩が、目を閉じ唇を尖らせながら、中村先輩をハグするポーズをすると、中村先輩は眩しい笑顔を浮かべながら、名倉先輩の頭を叩く仕草をした。

「ば~か。……まあ、少し待てば、雨、上がりそうだから、良いよ。ありがとうな」

「そうか。何か残念だな。はははは」

 ――何だか、私達と同じような話をしてる。

「それじゃあな」

「おう、お疲れ」

「それでは諸君! お先に!」

 名倉先輩は、まだ部室に残っていた人達に大きな声で挨拶をして出て行った。

「じゃあね、とも。ばいばい」

「ばいばい」

 ちづも私に手を振りながら部室から出て行った。

 部室には、私と中村先輩を含めて6人の生徒が残っていた。私以外のみんなは傘を持ってきていないようで、窓の外を恨めしそうに眺めていた。

 後片付けの終わった私は、折り畳み傘を鞄から出した。今、いる生徒の中で、帰る方向が同じなのは中村先輩だけだ。

 中村先輩に彼女がいるなんて話は聞いたことないけど、後輩の面倒見も良くて優しいから、吹奏楽部の女子にも先輩のファンは多い。何でも飽きっぽい私が、ずっと吹奏楽を続けることができたのは、中村先輩がいてくれたからかもしれない。

 私が吹奏楽部に入部して間もない頃、登校している私に、中村先輩の方から声を掛けてくれた。二人で並んで歩いて、私は舞い上がってしまって、その時、何をおしゃべりしたのか全然、憶えていない。でも、教室に入ってからも、胸がドキドキしてたことだけは憶えてる。

 中村先輩が側にいると、それだけで胸が爆発しそうになっちゃう。だから、ちゃんと話しもできないし、顔をまともに見ることもできない、意気地無しの私……。


 ――神様! 私に少しだけ勇気をください!


 私は、折り畳み傘を握りしめて、中村先輩に近づいて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ