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ベストポジション!

「すみませーん! 撮ってもらって良いですか?」

 池越しの金閣寺を背景にする場所に並んで立った私達から英恵はなえが飛び出して、通り掛かった老夫婦にカメラを渡した。

 英恵が急いで戻って来て、ポーズを決める。

 旦那さんが、三泊四日の修学旅行で行動をともにする私達五人に向けてカメラを構えた。 

「右端の人! 見切れちゃってるよ」

 旦那さんが私を見て、もっと中に寄れと手を扇ぐように振った。

 一番端っこ。五人並んで写真を撮る時の私の定位置だ。

「す、すみません!」

裕美ひろみ! もっとこっちこっちぃ!」

 隣の知代ともよが私と腕を組むと、自分の方に私を引っ張った。

「はい。じゃあ、撮りまーす! ルート四はあ?」

 冗談とか言いそうにない風貌の旦那さんの言葉に、みんなが笑った時、シャッターが下りた。



 英恵、知代、早紀子さきこ香奈恵かなえに、私・秋山裕美の五人組は、クラスの仲良しグループで、それがそのまま修学旅行の班になっていた。

 今日は、男女別のグループで京都を自由に探索をすることになっていて、みんなで話し合って決めた観光ルートを回ることにしていた。

「あれっ、あそこにいるの、加藤達の班じゃない?」

 英恵が指差す先、お土産屋さんの店頭に学ラン姿の男子がたむろしていた。同じクラスの男子五人組だった。

 向こうもこっちに気づいたみたいで、手を振りながら近づいて来た。

「何だ、早川達も来てたのか?」

 早川と言うのは、うちのリーダーの英恵のことで、声を掛けてきたのは、加藤君という男子の班のリーダーだ。

 まさか、こんな所で会うなんて思ってもなかった私の動悸が少し速まった。加藤君の視線から隠れるように知代の後ろに立つ。

「金閣寺っていう定番中の定番をはずす訳にはいかないでしょ?」

「そうだよな。もう回ったのか?」

「うん。そっちは?」

「こっちも見終わって、お土産を探していたところ」

「何か良いのあった?」

「いろいろあるみたいだぜ。一緒に見てみるか?」

「うん! みんな、見てみよ!」

 リーダーを任されるだけあって、英恵は何事にも積極的だし、男子とも気軽に話ができる。

 私達は、英恵について、お土産屋さんに入っていった。

 お菓子からご当地キャラまでが所狭しと陳列されている店内は少し狭くて、通路はやっとすれ違いができるくらいだった。

 明日には帰路に着く。みんな、ここでお土産を買おうと決めたようで、思い思いのお土産物を品定めしていた。

 私も両親と弟へのお土産を買おうと、アクセサリーやご当地キャラグッズが陳列されている一角をゆっくりと眺めていた。

「秋山は何買うの?」

 突然の声に横を向くと、加藤君がいた。

「え、えっと、思い出に残る物が良いなあって思って……」

「ああ、そうだよな。お菓子とかだと食べてお終いだもんな」

「う、うん。加藤君はもう買ったの?」

「俺は、これ!」

 加藤君が手に持っていた物を私に示した。そこには可愛いキャラが先端に付いたカラフルなボールペンが三本握られていた。

「可愛い!」

「そうだろ? 妹二人と母さんにね」

「えっ、お父さんには?」

「ちゃんとリクエストされててさ。お漬け物をもう買ってる」

「そうなんだ。ふふふ」

「秋山のその笑い方好きだな」

 握った手を口に持っていって笑う私にさりげなく加藤君が言った。

 私は、何と返したら良いのか分からずに、そのままの格好で固まってしまった。

「ああっと……、これ、レジしてくるわ」

 焦った感じでレジに向かった加藤君を目で追った。

 二年生で同じクラスになってから、英恵とかを通じて話をしたことはあるけど、二人きりで話をしたことはなかった。今、自然に話ができたのは、旅行に来ているという、普段と違う雰囲気のせいかもしれない。



 お土産を買って、お店の外に出た。

 既に全員がお土産を買い終えていて、みんなが揃っていた。

「おっ、ここからも金閣寺がばっちり見えるじゃん!」

 額に手をかざして英恵が見つめる先には、さっきよりは小さいけど、ちゃんと金閣寺が見えていた。

「本当だ!」

「なあ、みんなで写真撮らねえか?」

「うん、撮ろう!」

「じゃあ、俺が撮るから、みんな、並んで!」

 加藤君が金閣寺に向き合う位置でカメラを構えると、みんながその前に並んで立った。

 男子四人の横に女子五人。ここでも私は端っこ。

 加藤君と一緒に写真を撮りたかったけど、加藤君はカメラマンだし仕方がないと思っていたら、「加藤、変わるよ」と英恵が声を掛けて、加藤君に近づいて行った。

「悪いな。じゃあ、頼むわ」

 英恵にカメラを渡した加藤君は、私達の方に小走りにやって来た。

 ――って、えっ!

 加藤君は男子が並んでいる方じゃなくて、私の隣にやって来た。

「早川! 俺、入ってる?」

「ああ、もうちょっと中に入って」

「了解」

 加藤君が私の肩に触れるくらい近づいて来た。

 ――ど、どうしよう。ちゃんと笑顔ができるかなあ?

「これでどう?」

「おっけい! じゃあ、撮るよ! ルート四はあ?」

 シャッターが下りた。

 さっきの旦那さんの口調を真似た英恵の合図に、女子四人は爆笑したけど、男子の中には意味が分からなかった人もいたみたいだ。

「何だよ、それ?」

「にー! だよ」

「分からねえよ!」

「しょうがないなあ。じゃあ、もう一回撮るよ」

 加藤君が更に私に近づいたのが分かった。私のすぐ斜め後ろに加藤君がいた。

「ラッキーだな」

「えっ?」

 加藤君の呟きに思わず振り向く私の目に嬉しそうな加藤君の笑顔。

「だって、俺のカメラに秋山の隣で撮れた写真が二枚もあるなんてさ」

「裕美! こっち向いて!」

 英恵の言葉にすぐに前を向く。英恵が「にひひ」と笑ってる気がした。

「じゃあ、いくよー! 一たす一は?」

「にー!」

 今度は全員の笑顔が決まったようだ。一人赤い顔をしていた私以外は。

 

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