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今年のクリスマスは中止!

「和美! 一緒に帰ろう!」

 下校しようと教室から出たところで、同級生の美貴に背中から呼ばれた。

「あれっ、いたんだ」

「ずっと、いたじゃん! 何? 私ってそんなに空気なの?」

「違う違う! 一緒に帰ろうと思ったけど、姿が見えなかったから先に帰ったのかなって思ったの」

「トイレに行ってただけだよ」

 同じ中学の出身で帰り道も同じだった美貴は帰宅部の仲間だった。

「ねえ、図書館に寄って行かない? 家じゃ、なかなか勉強モードになれないからさ」

 二週間後にはクリスマスイブというこの時期。

 我が高校では期末試験期間の真っ最中で、一応、テスト勉強はしましたという免罪符を与えてくれる美貴の提案には乗っかかるしかないだろう。

「そうだね。行こうか」

 校門を出て、図書館に向かう道を並んで歩きながら、他愛の無い話をしていた二人の話題が共通の友人である寛子のことになった。

「寛子も誘ってあげてたら良かったね」

「一応、誘ったんだけど、ちょっと用事があるみたい」

「そうなんだ。でも、元気になって良かったよ」

「本当だよ。でも、……前みたいには戻れないよね」

「う、うん」



 一年の時とクラス替えも無かったうちのクラス二年三組の男子と女子は、けっこう仲が良くって、いくつかの仲良しグループができていた

 私と美貴、そして寛子の女子三人組に、一樹、優二、雅人の男子三人組がつるんで、六人でカラオケとか遊園地とかによく遊びに行っていた。

 グループができた時には、美貴には彼氏がいたし、優二と雅人には彼女もいたけど、みんな、別の学校の生徒だったから頻繁に会うことが出来なかったみたいで、今年のバレンタインデーの頃に、みんな、恋人と別れてしまった。

 そして、同じ頃、寛子と一樹が彼氏彼女の関係になった。

 でも、クリスマスが近いというのに、最近、寛子と一樹も別れてしまった。

 寛子から聞いた話によると、一樹と別れた原因は、結局、二人の相性が悪かったということらしい。

 一樹と寛子は似た者同士で、寛子に言わせると、自分の嫌いな部分を鏡で見せられているみたいだったと言っていた。

 そして、グループの中でできたカップルが別れるという事態に、男子三人と話をする機会も自然と減ってきて、私達の仲良しグループも自然消滅気味だった。

 寛子も別れた頃には沈みがちだったけど、私と美貴が寛子の「復活プログラム」なるものを勝手に立ち上げ、三人で遊びに行って励ましたりして、寛子も元の明るさを取り戻していた。



 私は、初めて会った時から、一樹が好きだった。

 でも、昔から自分の気持ちを相手、特に異性に伝えることが苦手な私は、年齢イコール彼氏いない歴だった。一樹のことが好きだと思っていても、それを一樹に伝えることなんてできなかった。自分の本当の気持ちは、美貴にも寛子にも言わずに自分の胸の中に仕舞って、一樹とは、ずっと友達としてつき合ってきた。

 だから、寛子から「一樹のことが好き」だと言われた時、一瞬、目の前が真っ暗になった。

 でも、私はそんな素振りは微塵みじんも見せずに、美貴と一緒に寛子を応援した。

 何て友達思いの良い奴なんだろうと自嘲するしかなかった。

 そして、一樹と寛子が別れたことを聞いて、密かに喜んでいる自分に気づいて、今度は、自己嫌悪に押しつぶされそうになった。

 寛子の気持ちを思うと、今更、一樹と親しくなることはできなかった。一樹だって、三人の中で寛子を選んだんだから、私のことを好きだとは思っていないはずだ。



 私達の街の中央図書館は、大きなショッピングセンターに隣接して建てられていた。

 自分達なりには勉強を頑張った私と美貴は、勉強で疲れた頭のリハビリのため、ショッピングセンターをぶらついていた。

 どのお店もクリスマスデコレーションが綺麗にされていて、キラキラと輝く飾り付けを見てる分には、心がウキウキしてくる。

「和美。何か目障りじゃない?」

「美貴なら言うと思った」

 美貴の視線の先には、体を寄せ合って、プレゼントとかデコレーションを選んでいるカップル達がいた。

「今すぐ私の視界から消えてほしいんだけど。後ろから蹴飛ばしてやろうかしら」

「どうどうどう! 落ち着け」

 私が美貴の背中をポンポンと叩くと、美貴の鼻息も少し収まったようだ。

「和美は、そんな気にならない?」

「ならないこともないけど……、いくら文句を垂れても、私に恋人ができる訳じゃないしね」

「相変わらずクールだねえ。和美は」

「諦めてるだけだよ」

「ところでさ」

 今までの怒った顔からガラリと変わって、笑顔の美貴が私の顔を覗き込むようにして見た。

「クリスマスイブの日、和美はどうするの?」

「クリスマス? 何それ? 美味しいの?」

 お約束の返事を返す。

「だよね」

 美貴は、ひとしきり笑ってから同じ質問をしてきた。

「どうするのって、何の予定もないよ」

「やっぱりね」

「美貴に言われると、何だかムカつくんですけど! そう言う美貴はどうなのよ?」

「おっと! 私に対して、その質問をするんじゃない!」

 美貴は、私に向けて手のひらを突き出して、顔をそむけた。

「ふふふふ、美貴だって『やっぱりね』! 二人とも今年のクリスマスは中止だね」

「そうだ! だったら、寛子も誘って、三人でカラオケでも行こうよ。クリスマスの中止を祝って、自棄やけで歌いまくったろうよ! 寛子だって、すっきりしたいだろうしね」

「うん! 良いね!」

「よーし! 三人でクリスマス中止を祝う会を開催だ!」

 そんな話で盛り上がっていると、ふと、見覚えのある後ろ姿が目に入った。

「あれっ、寛子じゃん」

 美貴も一人でクリスマスカード売り場の前にいた寛子に気づいた。

「何してるんだろ、一人で?」

「声を掛けて良いのかな?」

 用事があるからと美貴に言っていたから、てっきり、家に帰っていると思っていたのに、こんな所にいた寛子に声を掛けて良いのか、躊躇ためらってしまった。

 でも、振り返った寛子が先に私達を見つけた。

 寛子はバツが悪そうな顔をしながらも私達に近づいて来た。

「ちっす」

「ち、ちっす」

 寛子は、ため息を吐いてから話し始めた。

「見つかっちゃったか」

「クリスマスカードを買ってたの?」

「う、うん。あんた達にあげようかと思ってさ」

「えっ?」

「二人が励ましてくれたから復活できたって思ってるから、二人にちゃんとお礼を言いたかったんだ。だけど、何だか照れくさいから、カードに書いてあげようと思って」

「何だよ。寛子らしくないなあ!」

 美貴が怒ったように言ったけど、顔は笑っていた。

 でも、寛子は、気まずい表情のまま、私を見つめていた。

 私と目が合った寛子は、すぐに目を逸らした。

「……あっちに行こうか」

 寛子が指差した先には、ショッピングセンターのガラス張りの壁に向かって並んでいるベンチがあった。

 私を真ん中にして、三人が並んでベンチに座った。

 隣のベンチとは距離があったから、自分達の話し声は聞こえないはずだ。

 ガラス越しに見える外の通りには多くの人が行き交っていた。

「和美」

「うん?」

 私は、前を向いたままの寛子の横顔を見つめた。

「和美は、一樹のこと、好きでしょ?」

「……!」

 いきなりの爆弾発言に、私は言葉を発することができなかった。

「私、最初から気づいてたんだよ」

「……」

「和美って、正直者だからさ。隠そうとしても顔に出るんだよ」

「そ、そんな」

「一樹も和美のことが好きみたいだよ」

「えっ!」

 寛子が顔を私に向けた。笑顔だった。

「私が一樹と喧嘩した時、一樹が言ったんだ。『和美なら、そんなこと言わない!』って」

「……」

「私なんかと違って、和美が優しくて、おしとやかなことを一樹も知ってるからなあ。きっと、和美みたいな女の子の方が一樹には向いてたんだよ」

「実はさ、今だから言うけど、私も一樹とは和美がつき合うって思ってたんだよね。寛子がつき合い始めるとは思わなかった」

 美貴も今更な発表をしてきた。

「だからさ、和美!」

 寛子が私の肩に手を置いて私の顔を見た。その表情は真剣そのものだった。

「一樹とつき合っちゃいなよ」

「そ、そんなこと急に言われても」

「本当はさ、さっき言ったみたいに、こんなことを直に話すのが恥ずかしかったから、クリスマスカードに書いて渡そうかと思ったんだ。メールじゃ何か軽すぎるし、普通に手紙とかだと重いかなって思ってさ」

「……」

「元カノの私がこんなこと言うのって変かな? ……変だよね? 何かさ、人のおふるを押し付けているみたいでさ」

「おふるだなんて一樹が可哀想だよ」

「ふふふ」

 寛子だけでなく、美貴もクスクスと笑った。

「な、何?」

「和美って、やっぱり優しいね」

「……」

「でも、和美なら、一樹とも、きっと上手くいくよ」

「……」

 私が、この急展開に何も言えないでいると、また、寛子が話し出した。

「私ね、和美にずっと負い目を感じててさ」

「えっ?」

「和美は、私と一樹がつき合い始めた時も、嫌な顔一つせずに友達のままでいてくれたよね。それ、すごく嬉しかったんだから」

「……」

「でも、和美に悲しい想いさせちゃったなあって、いつも思ってて……。だから、和美に一樹とつき合ってもらいたいって言うのは、私のせめてものお詫び」

「お詫びって、寛子は悪いことをしてた訳じゃないでしょ!」

「私の中では悪いことをしたって思ってる」

「そんなこと言わないでよ!」

 自分でもびっくりするくらいの大きな声が出た。

 私の剣幕に寛子も美貴も驚いていた。

「……そんなこと言わないで」

 うつむいた私の頬に涙が伝った。

 しばらく、気まずい空気が三人の間に漂ったけど、寛子がそれを破った。

「和美。……変なこと言ってごめんね」

 寛子も泣いていた。

「和美の気持ちも考えずに、一方的に自分の考えを押し付けちゃったみたいで」

「ううん! 違う! 違うから!」

 私は顔を上げ、寛子を見た。

 酷い顔をしていた。私も同じ顔をしてるはずだ。

「私の方こそ、寛子にそんなこと思わせていたなんて……ダメダメだよ」

「私、そんなダメダメな和美が大好きなんだ。『お詫び』だなんて変なこと言っちゃったけど、和美を応援したいのは本当なんだから!」

「和美ってさ、言いたいこと、いつも飲み込んでるでしょ? 私達に遠慮なんかしなくて良いから。和美は和美の気持ちを一樹にぶつけたら良いんだよ」

 美貴も私の背中に話し掛けてきた。

 振り向くと、美貴も涙ぐんでいた。

 いつも冗談交じりで真面目な話なんてしたことのない三人だったのに、二人がこんなにも私のことを考えてくれていることに初めて気づいた。

「……分かった。何か、……ありがとう」

「うまくいくと良いね」

 美貴の言葉に私も頷いた。

「ああ、寛子」

 私越しに美貴が寛子に話し掛けた。

「さっき、イブの日に、和美とクリスマス中止を祝う会をやろうって言ってたんだよ。でも、和美は出られないかもしれないから、寛子、二人で行かない?」

「行く行く!」

「どこに行く?」

「やっぱ、カラオケで歌いまくりかな?」

「だよね」

「私も行く」

 はしゃぐ美貴と寛子の話に、私が割って入った。

「えっ?」

「私も行くから」

「和美は、絶対、一樹と仲良くなれるよ」

「ううん。そうじゃなくて」

 私は二人の顔を相互に見渡した。

「寛子と美貴と一緒にクリスマス中止のお祝いするの」

「どうして?」

「だって、もう、サンタさんがプレゼント置いていっちゃったから」

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