絶対振り向かせる!
今日から一つ上の階の教室。窓から見える空も広くなった気がする。
「亜矢! また同じクラスだね! よろ~!」
既に席に着いていた私のすぐ側にやって来て、掌を上向きにして差し出してきた真紀の両手を、私も両手で軽くはたいた。
でも、真紀、ごめん。
あんたと同じクラスになったことも嬉しいけど、今の私にはもっともっと嬉しいことがあるのよ。
3月までは隣のクラスにいた広崎君と同じクラス! しかも、私の右隣の席!
――広崎君、私のこと、知ってるかな? たぶん、知らないよねえ。話したことはないし、共通の友人とかもいなかったし……。
サッカー部のレギュラーで、女子に人気がある広崎君のことは、自然に耳に入って来て、私は、ただ広崎君のことを見つめるだけの毎日だったけど、これからは同じクラスメイト! チャンス到来なの!
――広崎君が来たら、どうやって話し掛けようかな?
まあ、最初は、普通に「おはよう」だよね。その次は、自己紹介して「これからよろしく」って言えば良いか。……でも、広崎君だけに言うのって露骨すぎない? そう言えば、前の席の人にもまだ挨拶してないし。後ろも、左隣にも。……今のうちに挨拶しちゃおうか。それだったら、広崎君だけに挨拶したことにならないもんね。……よし!
「亜矢!」
「えっ」
ジト目で私を見下ろしている真紀と目が合った。
――あんた、まだ、いたの?
「新学期早々、寝不足? 何か、ぶつぶつ独り言呟いてて怪しいよ」
「そ、そう?」
「高梨亜矢は変人だって早速、気づかれちゃうよ」
「うん、…………って、ちょっと! 私は変人じゃないから!」
「私から言わせてもらうと、充分、変人だね」
――あ~あっ、何で新学期早々、真紀から変人扱いされるくらい悩まなければいけないのよ!
「分かったから、とっとと自分の席に行った、行った」
私は犬を追い払うように真紀に対して手を振った。
「へいへい。お昼一緒に食べようね」
真紀は私に手を振りながら、教室の右前隅の自分の席に向かった。
――よし! 今のうちに周りの人に挨拶すましちゃおう。
「おはよう」
広崎君、キター!
来たよ、来たよ! ど、どうしよう! まだ周りの人に挨拶してないし、心の準備が……。
あれっ、……今の「おはよう」って、私に言ってくれたの? ……あっ、何か違うみたい。広崎君の前の席の女の子と話している。……あの子、広崎君と同じクラスだった? 誰? ねえ、誰よ?
あんなに楽しそうに広崎君と話ができて、……良いなあ。
……見てろ! 私だって! 絶対に今日のうちに、私の顔を憶えてもらって、これから首が痛いってくらい、いつも左側を向いてもらうんだから!
えっ、……て言うか、広崎君、……今、左側、見てる?
「おはよう。……高梨亜矢だろ? 2組にいた」