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トライアングル・ラヴァーズ

「止めて!」

 私は両手でノブの肩を押して、私を抱きしめてキスをしようとしたノブの体を押しのけた。

 よろけるように数歩後戻りしたノブは、不満げな顔をして私をにらんだ。


 私、五十嵐美由いがらしみゆと、近藤信秀こんどうのぶひで上田明彦うえだあきひこの三人は、ミユ、ノブ、アキと呼び合う、家が近所の幼馴染みで、小学校から高校までずっと同じ学校に通った仲良し三人組だった。勉強も遊びも、三人を含むグループだったり、三人だけだったりしたけど、三人はいつも一緒だった。

 運動神経抜群で喧嘩も強かったけど、けっして弱い者虐めをしないノブと、頭が良くって、みんなに優しいアキの二人とも、私は大好きだった。

 大学生になって、アキだけが別の大学に行き出すと、自然、ノブと二人だけで会う時間が増えてきたけど、私はよくアキに電話をして、できるだけ三人一緒の時間を作った。私は、この三人でいる時間が大好きだった。

 

 ノブから、「ずっと前から好きだった」と告白された。

 私も「好きだよ」って答えた。それは嘘偽うそいつわりない本当の気持ちだった。でも、抱きしめてキスしようとしたノブを受け入れることはできなかった。

「それがミユの気持ちなのか?」

「私の気持ちって?」

「俺よりアキの方が好きってことなんだろ!」

「どうしてそうなるの?」

「俺の気持ちを受け入れてくれないってことは、そうとしか考えられないじゃないか!」

「違う! 違うよ! ……私は、二人とも好きなの」

「俺は、もう友達としての関係にピリオドを打ちたいんだ! お前のオンリーワンになりたいんだよ!」

「……」

「ミユ。俺達はもう大人なんだ。俺は、……ミユが欲しい。ミユを抱きたい!」

「……駄目」

「やっぱり、……アキか?」

「違う! アキとだって、そんな関係になるのは嫌だ」

「それじゃあ、いつまで、こんな関係でいるつもりなんだ? 大学を卒業するまで結論を出してくれないのか? それとも俺は、永遠に、ミユとは恋人という関係にはなれないのか?」

「……分からない」

「ミユ。俺は、いつまでも子供のようなミユが好きだ。だけど、いつまでも子供のままじゃいられないだろう?」

「……」

「一週間、……一週間後までに返事をくれ。駄目でも良い。とにかく返事をくれ。そうしないと、俺は気が狂いそうなんだ」


 次の日。

 私はアキに電話をして、駅前の喫茶店で会った。

「そうか。ノブが……」

 アキは目線をコーヒーカップに落として、しばらくぼんやりと見つめていたが、おもむろに顔を上げると苦しそうに微笑んだ。

「ノブは、本当にミユのことが好きなんだな。俺なんかよりずっと……。迷うことなんて無いじゃないか。ノブと付き合えば良い」

「アキは私のこと、好きじゃないの?」

「好きだよ。でも、ノブみたいに、ミユに告白しなければいられなかったほど、好きかって言うと、……たぶん、ノブには負けるだろう」

 ――そんな顔していたら、嘘だって分かるよ。

「私は嫌だ。アキとも仲良くしたいの」

「……ミユは欲張りだな」

「えっ?」

「だって、男二人と女一人がずっと一緒にいられるわけがないじゃないか。俺だって、いつかは嫁さんを見つけて子供も作って、人並みに幸せな家庭が築けたら良いなって考えているんだ。ミユにだって同じ幸せをつかんで欲しいとも思ってる。それは俺かもしれないし、ノブかもしれないし、全然、別の男性かもしれない。そしてそれを選ぶのは、ミユ自身だよ」

「……もしも、もしもだよ。私がアキの方が好きだって言ったら、アキは私の恋人になってくれるの?」

「もちろんさ」

「それじゃあ、私がノブを選んだら?」

「心から祝福するよ」

「ノブからは、来週の月曜日に返事をくれって言われてる」

「それじゃあ、俺も言うよ。来週の月曜日までに、俺にも返事をくれ」

「……アキ」


 その日の夜。

 私は考えた。意外とすんなりと結論が出た。

 彼の優しさに包まれていると、すごく居心地が良くて、それに甘えて、ままを言っていただけだということが分かった。

 私は彼に電話を掛けた。

「もしもし。……ミユです」

「ああ」

「明日また、……会いたいです」

「結論が出たんだね?」

「うん。……彼にもちゃんと話す」

「ミユ」

「はい」

「三人で会おう。あいつとは、これからも友達のままでいたいから」

「……うん」

 明日、私達は、正三角形から二等辺三角形に変わる。

 ――きっと、なれる!

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