ずっと一緒に見たいから
高校3年生の春が始まった最初の朝。
私はいつもどおり、幼馴染みの康平の家の玄関の呼び鈴を鳴らした。
「あっ、さっちゃん。おはよう」
「おはようございます」
ドアを開けて出て来た康平のお母さんもいつもどおりの苦笑い。
「いつも待たせちゃってごめんね。もう降りて来ると思うから……」
「はい」
私もいつもどおりの返事を返すとすぐに、玄関のすぐ横にある階段を、タンタンタンと音を立てて康平が降りて来た。
――あれっ、眼鏡?
「おはよう、康平」
「ああ」
お母さんの前ではいつも不愛想な康平が、いつもどおりの返事を返してきた。
「いってらっしゃい」
康平のお母さんに見送られながら、私と康平は学校への道を並んで歩き出した。
こうやって康平と一緒に学校に行くのは、小学生の時からずっとだ。
私が、小学校までの通学路の途中にある家の庭にいる犬にいつも吠えられて怖いって言ったら、隣の家の康平が一緒に行ってくれるようになった。
それから同じ中学校を卒業して、同じ高校に合格して……。
「ねえ、康平。眼鏡、どうしたの?」
「コンタクトなくしちまった」
「ふ~ん。康平が眼鏡を掛けているのって、ずいぶん昔に見て以来って感じ」
「中学3年の卒業間近に近視になって眼鏡掛けたけど、高校に入ってすぐコンタクトにしたからな」
「ああ、そうだったね。でも、……何だかいつもと雰囲気が違う」
「そうか?」
「うん」
「どっちが良い?」
「えっ?」
「だから、眼鏡の俺と、コンタクトの俺と?」
「眼鏡の康平と、コンタクトの康平はどこが違うの?」
「顔の雰囲気とかさ」
「それだけ?」
「それだけって?」
「中身も替わるのかなって思って」
「替わるわけないじゃん。俺は俺なんだから」
「それじゃあ、何で訊いたの? 眼鏡の俺と、コンタクトの俺のどっちが良いかだなんて」
「どっちが似合っているかなって、お前の意見を参考までに訊きたかっただけだよ」
「じゃあ、眼鏡の方が似合ってるって、私が言ったら、もうコンタクトは止めるの?」
「まあ、……考える」
「そうなんだ。人の意見でころころと変えちゃうんだ」
「お前の意見だけだよ」
「えっ」
「だから、……お前が良いっていう方にするんだよ。他の奴の意見なんて訊いちゃいねえよ」
困った時には、ちょっと怒ったように話すところも全然変わらない。
「……ねえ、その眼鏡、度が合ってる?」
「ああ、そんなに近視は進んでいないはずだから」
「そう、…………ねえ、私のこともちゃんと見えてる?」
「見えてるよ」
「本当かな?」
「ちゃんと見えてるって」
「じゃあ質問。私の目には何が映っているでしょうか?」
「えっ、………お、俺かな」
「あはははは。自惚れ屋さん」
「ち、ちがうのかよ?」
――違うよ。私の目に映っているのは、高校卒業しても、こうやって一緒に歩いている私達だよ。