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転校生は圏外野郎!

 あ~あっ、面白くない! 退屈だぁ!

 友達と遊ぶのも、バレーボール部の練習で汗をかくのも好きだけど、何かが足りない!

 ――そう! 彼氏だ!

 デートしたいじゃない! ぎゅって抱きしめられたいじゃない! キスだって、……してみたいし。

 でも、そんな素敵な男の子が我が校にはいない! 高校2年になる今の今まで、その姿を見るだけで心がときめく、そんな男の子に出会ったことがない! 断言できる! 本当にいない! 

 超美形の転校生がいきなりやって来るというベタな展開に期待するしかないのかな?


 朝、教壇に立った担任のこの一言からすべては始まった。

「今日は、このクラスに転校生が来ましたので紹介します」

 転校生キターッ! 私の運勢も開けてきたかぁー!

 …………って、何? 中学生?

「大阪から来た山中吉宏って言います。どうぞ、よろしゅう」

 担任に促されて教室に入って来た、おそらく身長150センチ代の小柄な男の子は、関西弁丸出しで挨拶をした。

「今日の日直は、木村だったな。木村! 山中に色々と教えてやってくれ!」

 えっ、わ、私! 今日、たまたま日直だっただけなのに、何で私?


 休み時間。

 私は、とりあえず、山中君に私達の教室があるフロアの案内をした。

「なあ、木村は、何ちゅう名前なん?」

 いきなり呼び捨てかよ! 馴れ馴れしいにも程があるぜ!

典子のりこだけど」

「ほなら『ノッコ』やな。俺は、『よしひろ』やから『ヨッシー』って呼んでくれ」

 ちょっ! いつの間に、あだ名で呼び合う仲になったの、私達? 

 関西の人って、みんな、こんなノリなのかな?

「ノッコは、何かクラブ、やってんのか?」

「バレーボールをしてるけど」

「ああ、なるほど。でかいもんなあ」

 ほっといてくれる! 大女で悪かったな!

「そう言うヨッシーは、何かクラブをやっていたの? その・身・長・で?」

 この私を怒らせるとどうなるか思い知らせてやるぜ!

「学校のクラブは何もしてへんかったわ。でも、ギター弾いてる。ギターに身長は関係あらへんやろ」

「ギター?」

「ああ、友達とバンド組んでたんや。こっちでもバンドは続けたいんやけど、ノッコはバンドやってる奴、知らへん?」

「さ、さあ?」

「何や、お前。友達、少ないんか?」

 私は体育系少女なのよ! そっち系の情報は残念ながら持ち合わせていないの!

「この階はこれくらいかな。別の階も見る?」

「もう、ええわ。大体分かったから。それに、これ以上、ノッコと一緒にいて、ノッコの彼氏と誤解されると困るからな。俺が」

 ない! 絶対にない!

「あんたが困るって何よ。大阪に彼女でもいるの?」

「おらんがな。今はギターが恋人や」

「そんなにギター好きなんだ」

「まあな。ノッコは、何か楽器、できんのか?」

「……リコーダーくらいなら」

「お前、天才やな! 俺はリコーダーなんて吹けへんわ」

 自慢するな!

「でも、何で音楽の授業で演奏する楽器はリコーダーなんやろな?」

「知らないわよ」

「ギターでもええやん。ギターって、未だに不良の楽器なんて思われてるんかいな?」

「そんなことはないと思うけど……。ギターって高いんでしょ?」

「何、言うてんねん。安い奴は驚きの安さであるで」

 その後、ヨッシーは、休み時間が終わるまで、延々とギターの話をした。私が興味を持ってるかどうかは関係ないみたいで、本当にギターが、そして音楽が好きなんだなって感じざるを得ないほど、熱く語っていた。

 時折、入れてくるヨッシーのボケに突っ込みながらも、結局、私も最後まで飽きることなく、ヨッシーの話を聞いた。


 3週間後の土曜日。

 私は、この日のために買ったワンピースを着て、駅の改札前で待っていた。

 約束の時間から5分遅れの定時ぴったりに、ヨッシーがやって来た。

「よっ! えらいおめかししとるなあ」

「い、良いでしょ! そ、それより、ヨッシーの格好は何? それがデートに着て来る服?」

 ヨッシーは、黒のタンクトップに、迷彩柄のハーフパンツ、足元は裸足にサンダルという、近所のコンビニに買い物にでも行くような格好だった。

「良いやろ。暑いんやから。ほな、行こか」

 そう言うと、ヨッシーは一人で歩き出した。

「ちょっと! 彼女を置いて勝手に行かない!」

「どうすればええんや?」

「ちゃんと手をつないで行くこと」

「暑いやん!」

「暑くてもデートの作法なの」

「ほんまかいな?」

 そう言いながらも、ヨッシーは手をつないでくれた。もう分かってる。ヨッシーの照れ隠しだって。

 ――背、低いし、頭、悪いし、口も悪い。

 私が想い描いてきた理想の彼氏のイメージからはほど遠く、彼氏にしても良い男の子の圏内にすら入っていなかったヨッシーが、私の退屈だった毎日を消し去ってしまった。

「何か、もう腹減ってきたなあ。昼飯は、久しぶりにお好み焼き、食べたいわ」

「まだ映画も見てないのに、もうお昼の心配?」

「ええやん。ノッコも好きって言ったやろ、お好み焼き」

「そうだけど、物事には順序ってものがあるの!」

「お好み焼きは2番で、映画が1番かいな。ほなら、俺は何番なんや?」

「あんたは圏外よ!」

「何や、それ?」

「順番なんて付けられる訳がないじゃない!」

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