ハートにシュート!
休み時間。
隣のクラスの北島君が、私のクラスの小原さんの所に来て、話をしていた。
北島君は男子の、小原さんは女子のバスケット部のキャプテンをしているから、色々と話し合わなければいけないこともあるんだろうな。
私は、そんな北島君を自分の席からじっと見つめているだけ。
背も高くて格好良くって、小原さんと話している時の笑顔がすごく素敵な北島君とは、一度で良いから話をしてみたいって思っていたけど、小原さんも3年になって初めて同級生になった人で、そんなに仲が良いって訳じゃないから、北島君と話すきっかけができないままだった。
もっとも、私もそんなに思い詰めている訳じゃない。
私は、小さい頃から、何をするにも醒めていた。中学の時にはバスケット部に入っていたけど、基本的に、人と競争したりすることが嫌いで、スポーツをしていても、そこまで必死になることないんじゃないって思ってしまって、ずっと補欠のままだった。
高校でも、結局、どのクラブにも入らずに、帰宅部を決め込んでいた。
――そう。恋にだって、何にだって、面倒くさがり屋なんだ、私って。
「澤田さん。お昼休みにバスケしない?」
4時限目が始まる前の休み時間に、小原さんが私の机に近づいて来て話し掛けてきた。
うちの学校は、お昼休みに、校庭や体育館を生徒に開放していて、自由に使うことができた。
「千早から、澤田さんも中学の時にバスケしていたって聞いたから。どう?」
千早というのは、今は別のクラスになっているけど、中学時代にはずっと一緒にバスケットをやっていた親友の宮川千早のことだ。
「でも、高校に入ってからは全然、やってないから」
「大丈夫だって。ガチでやる訳じゃなくて、遊びで、3オン3でもしようかなって思っているだけだから」
「……それじゃあ、久しぶりにやってみようかな」
「うん、やろう」
そんなことがあって、小原さんとは、今日、初めてお昼を一緒に食べて、色々と話をした。
やっぱり運動部のキャプテンをしている人って、ハキハキと物を言うから、話をしていても面白かった。もっと早く友達になれば良かったなあ。
昼食を終えて、小原さんと一緒に体育館に行くと、バスケットゴールの下で、千早がのんびりとドリブルをしながら待っていた。
「千早! お待たせ!」
「遅いよ、知香! あっ、佳奈も来たんだ」
知香とは小原さんのことで、佳奈とは私のことだ。
「あれっ、千早、一人なの?」
「そうなんだ。後の三人に振られちゃってさあ」
「仕方ないね。誰か来るまで、ちょっと三人で遊んでいようか?」
私は、久しぶりに触れるバスケットボールを、最初は少し重く感じていたけど、しばらくすると、中学の時の記憶とともに、ボールの感覚を思い出してきた。
「佳奈! さすが昔取った杵柄だね。全然いけるじゃん!」
「そうかな? 現役の千早に褒められると嬉しいよ」
「お世辞じゃないって」
「小原!」
小原さんを呼ぶ男子の声に振り向くと、そこには、二人の男子と一緒に北島君が立っていた。
「北島君かあ。何? バスケ、やりに来たの?」
「ああ、でも先を越されちゃったなあ」
「残念ながら私達もこれ以上、メンバーが来そうにないんだ。北島君、一緒にやる?」
えっ、北島君とバスケを……。
「良いのか?」
「ええ! 千早、澤田さん、良いでしょ?」
小原さんが私と千早の顔を見ながら同意を求めた。
「OK! 男子に目にものを見せてやろうよ!」
ちょっと千早! 北島君と一緒にいる男子もバスケット部の男子みたいだし、しかも、北島君も他の二人の男子も話をしたことない人だよ。
「あ、あの、バスケット部のみんなの中に、私がいたら迷惑だよね?」
私は遠慮がちに小原さんと千早に言った。
「何、言ってるのよ! 佳奈は大事な戦力なんだからね!」
小原さんも笑って頷いていた。
「小原のクラスの人か?」
北島君が小原さんに訊いた。
「ええ、澤田さんよ。中学の時にバスケやってたんだって」
「へえ、そうなんだ。5組の北島って言うんだ。後、こいつは岡村で、そっちは平木って言うんだ。よろしく」
北島君達が軽く私に頭を下げた。
「あ、あの、4組の澤田って言います。よろしくお願いします」
まさか、こんな形で北島君と話すきっかけができるなんて思ってもいなかったから、私はちょっと動揺してしまって、普段の私らしくなく、しおらしくお辞儀をした。
「それじゃあ、澤田さんもいるから、少しハンディを付けるか?」
「ふっ、不要だね。佳奈、本気で行くよ!」
千早が北島君の提案を一蹴りにした。
「宮川! 俺の闘争心に火を付けやがったな!」
北島君の眩しい笑顔が、私の中の何かを弾けさせた。
――よしっ! 私も、本気で行く!




