鳴らない携帯を見つめて
雨の日曜日。
メールの着信音と携帯の振動が私の心を躍らせる。
でも、届いたのは、女の子の友達からの、今日のショッピング中止のメール。
あなたがくれた最初のメール。それは、サークルの全員に一斉送信された、第一回目のミーティングの日程を知らせるメール。
【ミーティングの日程連絡】
「5月17日(土)午後7時に新宿駅南口に集合! 遅れるなよ!!」
【Re:ミーティングの日程連絡】
「日程調整ありがとうございました これからもよろしくお願いします」
たったこれだけの文面を打ち込むのに一時間も掛かっちゃった。
ハートマークの絵文字も入れたかったけど、最初からハートマークって、やっぱり引いちゃうよね。
ニコニコ顔文字くらいは入れた方が良かったかな? なんか事務的にお礼を述べただけみたいだし……。
でも、あなたはちゃんと返信してくれた。
【Re:Re:ミーティングの日程連絡】
「どういたしまして。こっちこそよろしくね(^^)」
私、嬉しかった。だって、私のこと、知っててくれたんだもの。
何回も読み返しちゃった。今度は、私もニコニコ顔文字を入れてメール送っちゃおうかな。
サークルのミーティングと称して、居酒屋さんで会合。
本当はあなたの隣に座りたかった。でも、やっぱり恥ずかしくて……。
それに私、絶対、何にも話せなくなっちゃうはず。もっと、あなたのことを知ってから、ちゃんとあなたとお話ができるって分かってから、あなたの近くに行くの。
だって、つまんない女の子だって思われたくないから……。
まだ慣れない東京の街で、待ち合わせ場所を間違えてしまった私だけに、あなたがくれたメール。
【方向音痴さんへ】
「今度は間違えるなよ。場所分からなかったら、俺の携帯に電話して!」
あなたともっとメールを交換したい。
「おはよう」とか「おやすみ」だけでも良いの。
今日、テレビで見たドラマの感想なんかでも良いの。
「好き」って言ってくれなくても良いの。
でも、私からはメールできない。だって、……嫌われたくないから。
何も言わずに、あなたを見ているより、告白して振られる方が良いのかな。
でも、告白して振られちゃったら、もう私、このサークルにも居られない。そう、あなたの顔を近くで見ることもできなくなるのは嫌。
本当はあなたの声が聞きたい。
でも、電話だと、私、恥ずかしくて何も喋れないと思う。
だけど、メールだと色んなことが伝えられるような気がする。
あなたにとって、私は同じサークル仲間の一人にすぎなくて、話しててもそんなに面白い子じゃなくて……。
でもね、本当はいっぱい、いっぱい伝えたいことがあるの。だから……。
私は今日も、鳴らない携帯を見つめている。