08 First Finale
夏休みが終わって九月になった。
あの盆踊りの日から、幾度と無く俊朗に連絡をしたが、携帯電話は全くつながらなかった。メールも無しの礫だった。全くの音信不通。あたしは気が抜けたように腑抜けになった。ただ何か釈然としない想いだけがあたしの中を駆け巡るだけだった。
「そう。ひと夏の恋だったのね」
「大変な思いをしたんだ」
恵梨佳と茉美はそう言ってあたしを慰めてくれた。
その後の半年、あたしはひたすらに受験勉強に打ち込んだ。そして何とか志望する大学に滑り込んだ。
その頃だった。
あたしの携帯電話が鳴ったのは。
相手は「大村 俊朗」の電話番号だった。
あたしは慌てて電話に出た。
「はい、遼子です。俊朗さん?」
残念だったが、電話をしてきた主は女性の声だった。
「咲田 遼子さんですね?」
あたしの声のトーンは一気に下がった。
「えぇ、そうですけど」
「私は、大村 顕子と言います。俊朗の娘です」
あたしはビックリした。
それと同時に疑問が湧いてきた。なんで娘さんが俊朗の携帯電話で電話してるんだろうと。
「父は、先月亡くなりました」
あたしは頭が真っ白になった。
なんで?
どうして?
その疑問に、大村 顕子はすぐに答えてくれた。
「貴女とお付き合いする前から癌を患っていました。貴女とお付き合いするちょっと前に『余命一年』と宣告されていたようです」
あたしは呆然として、娘さんの話を聞いていた。
「昨年のお盆前からかなり調子が悪くなりまして。それでたぶん、貴女との関係を断ち切ったようです」
俊朗にそんな事情があるとは、あたしは全然知らなかった。
「でも、貴女との関係を断ち切ったことが一番堪えたようで、その後の経過は悪化の一途でした」
あたしの顔には、行く筋もの涙が頬を伝っていた。
「最後まで貴女のことを気に掛けていました」
あたしは既に嗚咽を始めていた。
「父のために泣いてくれるのですか? ありがたいことです」
あたしはもう泣き崩れていた。
「大丈夫ですか? これから大事な話をしますけど、いいですか?」
あたしは少しでも正気になろうと涙と鼻水を拭った。
「はい、大丈夫です」
それを言うのが精一杯だったけれど。
「実は、父が貴女に『形見分け』をしたのです。受け取っていただけるでしょうか?」
あたしは、それを受け取ってからすぐに車の運転免許を取得して、黒のワゴン車を買った。
そして、あたしは四時間の長距離ドライブの後、林の中を進んでいた。
朽ち掛けた看板で脇道を逸れてその先まで進んだ。
そこは、俊朗が連れて来てくれた別荘だった。
あたしと俊朗が愛し合った別荘。
そして、あたしが女になったところ。
黒のワゴン車を停めて、あたしは車から降りた。
あたしは、自然に溢れ出る涙を止めることは出来なかった。
春の別荘は花が咲き乱れて、とても綺麗だった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
久しぶりに書いた「女子とおじさん」がテーマのプラトニックラブな作品。今回はちょっとエッチな描写も入れてみました。
「第五回『夏祭り』競作小説企画」に参加させていただいた作品。企画の趣旨から外れていないことを切に願いながら、企画サイトにはもっと素敵な作品が目白押しですので、そちらもお読みいただけたらと思います。