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07 Alone Again

 夏も半分が過ぎ、テレビでは終戦の特集が多くなった頃、あたしは俊朗と盆踊りに行くことにした。

 あたしは、黒地に青い花の浴衣に紫の四寸帯で、髪の毛はアップにして青色のコサージュを着けた。そして、俊朗は紺色のストライプの甚平を着て待ち合わせをした。

 俊朗は少し顔色が冴えない様子だった。

「どうしたの? 大丈夫?」

 あたしはそう訊くと大丈夫と俊朗は答える。けれども、どう見たって俊朗は無理矢理にでも笑っている感じに見えた。それでも俊朗は団扇で扇ぎながら、あたしと手をつないで、夜店の中を歩いたのだった。

 金魚すくい、綿菓子、リンゴ飴、チョコバナナ、お好み焼、焼きそば、たこ焼き、カステラ、お面、射的、くじ引き、スマートボール、輪投げ。

 まずは、たこ焼きで腹ごしらえをした。珍しく醤油味のたこ焼きで美味しかった。次は金魚すくい。あたしと俊朗、二人でやったけど二人ともすくえなくてモナカは撃沈。お店のおじさんにオマケしてもらって、二匹を袋の中に入れてもらった。カステラを摘みながら、くじ引きで当たった小さなピストルを構えたりして、櫓がある盆踊りの会場までやってきた。

 あたしと俊朗は、明らかに地元の踊りの会に入ってますという人の後ろで、見様見真似で踊った。同じ動作の繰り返しがあって、なかなか上手く踊れるようになった。

 その時だった。

 俊朗に男の人と女の人が話し掛けてきたのだ。

「あなた、うちの娘をどうするつもりですか!」

「いい歳して、娘を誘惑しないでください!」

 激しい口調で、俊朗に話し掛けたのは、あたしの両親だった。

「父さん、母さん、こんなところで何してんの!」 

 あたしがそう言うと、母親の百合はあたしに激しく言い返した。

「遼子、あなたこそこんなところで何をやっているの!」

 父親の秀行も、今日ばかりは完全な父親の顔だった。

「あなたは誰なんです! あたしの娘を誘惑して! 訴えますよ!」

「うちの娘をどうするおつもりなの!」

 両親の厳しい言い方に、あたしも反論した。

「このヒトは、あたしの恋人なの! 恋愛は自由じゃないの、父さん? 父さんだって何をしてるの!」

 父親の秀行は、益々顔を真っ赤にして怒鳴った。

「それとこれとは話が別だ! 今はお前のことを言っているんだ」

 母親の百合も負けてなかった。

「こんなおじさんが恋人だなんて! 母親のあたしは許しませんからね! えぇ、絶対にね!」

 あたしはもう泣き出しそうだった。

 その時、俊朗はあたしの両親に対して深く頭を下げたのだった。そしてゆっくりと静かに言葉を吐いた。

「申し訳ありませんでした。僕の不徳の致すところです。面目ありません。素直に謝ります」

 あたしの両親は、俊朗のその態度に肩透かしを喰らったようでポカンとしていた。

 一番ショックだったのはあたしだった。俊朗がそんなことを言うなんて。

「ねぇ、それ、嘘でしょ? あたしのこと、愛してるんでしょ? 違うの?」

 あたしは、俊朗にすがって揺り動かして訊いた。しかし、俊朗は頭を下げたまま、ビクとも動かなかった。

 やがて俊朗は頭を上げて、あたしの両親に言った。

「すみませんでした。これ以降今から、もう娘さんには近づきません。連絡も取りません。それで勘弁していただきますよう」

 言い終わると、俊朗は回れ右をしてその場から立ち去って行った。

「それ、どういうことなの! 俊朗さん、待ってよ! 待ってたら!」

 あたしは俊朗に追いすがろうとしたら、父親の秀行と母親の百合に腕を掴まれて身動きが取れなかった。

「放してよ、ねぇ、どういうこと! こんなの嫌だよ!」

 あたしは地団駄を踏んで、大粒の涙がこぼれた。

「嫌よ、こんなの! 絶対に嫌よーっ!」

 俊朗は全く振り返りもせず歩き続け、雑踏の中へと消えて行った。

「遼子、あなたは今年大学受験なのよ。ちゃんと勉強してもらわないと困るわ」

「そうだよ、今が一番大切な時なんだ。恋なんかに現を抜かしている場合じゃないんだ。ましてや、あんなおじさんとの恋なんて絶対に許さんから」

 両親はあたしをなだめすかすのに必死ののようだったが、あたしにはその言葉は聞こえていなかった。あたしが一番ショックだったのは、俊朗があんなに簡単に身を引いたことだった。

 あたしはガックリと肩を落として、その場で泣き崩れてしまったのだった。

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