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僕の幸せはどこにある?

作者: やさきは

恋愛小説とか初めてです。

何か恋愛とは違うんですけど……

「ねぇ広田君、ちょっといいかな」


 先生の話も終わり、これから帰ろうかとした時だった。僕の二つ隣の席の女子、永丸(ながまる)さんが話しかけてきた。


 教科書をカバンに入れていた手を止め、永丸さんを見る。


 栗色の髪は肩のあたりで切りそろえてあるショートカット。眉は切れ長で、パチリと開いた目がこちらに向いている。


 教室の窓からさす太陽の光が逆光となって、彼女の姿は見にくかった。でも、雪のように白く、けれども血の通った健康的肌は、それでもよく見える。


「今から、ちょっといいかな。頼みたいことがあるんだ」


 永丸さんの包み込むような優しい声が耳を通った。


「あ、うん。僕で良ければ」


 自然な受け答えは出来ていただろうか?


 そればかり気にしてる僕だけど、永丸さんはぱぁっと咲いた花のような笑顔になった。


 僕も、誰かが笑っているのは嬉しい。勝手に頬が緩む。


「じゃあ、みんながいなくなった頃にまた来てね」


 永丸さんはそう言うと、ささっと自分の席に戻った。カバンの中から文庫本を取り出して読んでいる。でもよく見ると、文庫本を読んでいるようで心はここには無いようだ。事実、僕が教室にいる間にページがめるられることは無かった。


 教室にはまだ、数人のグループがいくつか固まっている。


 十分くらい外に出ておけばいいかなぁ。


 そう思って、僕は教室を出た。





 永丸さん。


 僕は普通に話すだけでも、いちいち気をつけている。一番の言葉を探すようにしている。目を逸らさないように一生懸命になっている。


 今回のことで何か期待したのかと言われれば、ノーとは答えられない。


 でも、心の奥では分かっている。そんなことはない。僕みたいなヤツが、彼女の特別になれるはずがないんだ。


 それでもやっぱり、どこかで期待している。いやでも、やっぱりあるはずがない。


 意味の無い、無限に続く思考が頭の中でぐるぐる回った。


 まぁ、現実はいつも通常だ。


「あのさ、広田君って咲彦(さきひこ)君と仲いいよね?」


「え、あ、うん……」


 いや、通常だったけど、ある意味異常だった。


 咲彦……有明咲彦は、僕の幼馴染。昔から普通に遊んで、普通に話してきた。アニメとかでありそうな強い絆というものは無いけど、普通に仲がいい。


 いやしかし、そうきたか。


 僕の心の中は嫉妬とか悔しさとかじゃなくて、驚きとか楽しみだかという感情があった。


 僕と彼女が手をつないで歩いている姿が想像出来なかったからかもしれない。不釣り合いすぎる。


 その点、咲彦と永丸さんをくっつけるのはどこか面白そうであった。二人で仲良く歩いているのも不自然じゃない。


 その後の会話は、ありきたりなものだった。いや、僕には初めてだったけど。


 咲彦君の好きな物って何? ――SFの本。


 好きなタイプは? ――優しい子。


 普段は何してる? ――バスケが読書かゲーム。


 もし良かったら、私のことをどう思ってるか聞いてくれない? ――あぁ、うん。


 よかったぁ~。ありがとね、広田君。――あ、どういたしまして。


 ……こんな淡々としたやりとりをしていた気がする。彼女は僕のことは興味ないと言っているのだから、いい加減緊張するのは止まって欲しい。

 普段元気な永丸さんだけど、帰りはもっと元気だった。


 咲彦は別にイケメンに分類される人間ではないけど、悪い人じゃない。ちょっと鈍感な所があるから、僕が話して何か悟られることは無いだろう。


 これが恋のキューピットっでいうやつなのかな? 実際になってみると、意外と胸が躍る。


 永丸さんがいなくなってが少し経った。僕も帰ろうかと廊下に出る。


 でも、何なのだろうか? ……これも一つの恋の形なのだろうか?


 確かに僕は永丸さんが好きだ。でも両想いは有り得ない。僕のよく知る幼馴染とくっついて貰えれば、それは嬉しい。何でだろう?


 首をひねって考えても、よく分からない。


 ……まぁいっか。


 僕は校門を出て、いつも通りの帰路に着いた。





 咲彦にはあれから、さりげなく話してきた。元気な子は好きかとか、永田さんは知っているかとか、永田さんってかわいいよねとか……。


 思い返せば、自分も結構不器用だなと思える。それでも咲彦は気づく様子もなかったけど。


 それと、ここ最近咲彦はファンタジーにも凝ってきたから、永丸さんに伝えた。永丸が僕を名字で呼ぶのに、咲彦のことは名前で呼んでいるのに気づいたのもこの頃だった。


 まぁ、そんなこんなで僕も頑張ったのだ。これはこれで楽しかったし、二人とも問題はなさそうだった。この様子なら時間の問題か。


 そう思っていたのだけど……


「咲彦君。あの……わたしと付き合ってください!」


「え? ……ありがとう。気持ちは嬉しいんだけど――」

 結果は、異常だった。


 僕は校舎にもたれかかって二人の話を聞いていた。


 多分気づかれていないだろう。永丸さんにも来るとは言っていないし。っていうか、言ったら断られたと思う。


 そのあとの二人の会話なんて、もう聞いていなかった。僕は静かにため息をつくと、背中で壁を押して歩き出した。


 遠くで、誰かが走っていく足音が聞こえる。


 それはだんだん小さくなって、やがて自分の歩く足音だけが響いた。






 あとで聞いたら、咲彦には他に好きな人がいたらしい。名前は狛屋さん。どう考えても永丸さんには及ばないじゃないかと思ったけど、人の好みなんてまちまちだ。僕がとやかく言うことではない。


 永丸さんはしばらく元気が無かったけど、最近はまた明るくなってきた。


 でも、永丸さんから僕に話しかけてくれることは、ほとんどなくなった。もう用済みだとでもいうのか、もう思い出したくないというのか。それとも話す内容が無いのか。僕としては、一番最後だと嬉しいのだけど。






 結果的に何も残らなかった僕の初恋。こういうことってありきたりなのだろうか……。恋なんて知らないし、これも一つの恋の形なのかもしれない。


 思い返してみれば、僕が永丸さんに協力したのは、少しでも彼女に近づきたかったからだろう。単純だ。


 でも、咲彦と永丸さんがくっつくのも嫌な気はしない。

咲彦が永丸さんをフッたからといって、怒りとかを感じることもなかった。


 残ったのはちょっとの知恵と沢山の虚無感。悪いことをしたとは思っていないけど……


 結局、僕が求めていたものは見つからない。確かな満足感、達成感、幸福感。何も感じない。


 そう思うと少し悲しくなった。


 僕の幸せはどこ?


 永丸さんは雲の上で、彼女が笑顔なら僕も嬉しい。


 だけど、僕は雲の上の幸せを掴める人間じゃない。背伸びしたって、本棚の一番上に手が届くだけ。


 見られればよかったと思っていたのだろうか?


 永丸さんとはたまに話すことはあるけど、僕は相変わらず緊張している。なんだか……笑えるね。

 この感情は? 多分、もどかしい、だ。




 僕って、幸薄いなぁ……


 なんとなく、呟いてみた。

お読み頂き、ありがとうございます。やさきはです。

現在連載している小説も一段落し、勢いで書いた短編小説です。

当初の行き先とずれてしまったこともありますが、なんとかなりました。


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