7.巨乳な乙女と求める乙女 ※
※ R15&GLに相当するかもしれない描写があります。ご注意ください。
ぼよぉん。ぽにょん。ぷにん。ふにゃ。もにょん。
目の前で思い思いに揺れる至宝たちに、私は顔がだらしなく歪むのを必死に堪えるので精一杯。さすが人に肌を見られるのに慣れている貴族のお嬢様方だけあって、湯に入るために脱ぐのに躊躇いもなければ恥じらいもない。それは眼福。きっと誰かに洗われることも慣れてるだろうから、すぐに触りあいしたり洗いあいしたり揉み扱いたりも出来るようになると思うわ。
でも……恥じらいがないのはちょっと寂しいわ。恥ずかしそうに胸を隠す様はくるものがあるのに。残念。
「シェシィ、何を食べればそんなに大きくなりますの?」
「……特別何をということはないと思うのだけど」
かろうじて膨らみが分かるといった程度のカチュネが、既に手には収まりきらないだろう大きさのシェシィの胸を眺めながら尋ねてる。ふたりとも隠そうとする気配もない。
カチュネのそれはともかく、シェシィのそれは考えるように頬に手をあてたために腕で押されその見事な形を歪めさせてる。ああ、是非とも私の手で行いたいわ。
でも本当に、二人ともが隠そうという気すらないみたい。私も見られるのには慣れているのだけど……さすがにそこまで堂々とは無理。うちでは湯殿まで誰かが付き従ったりってことはなかったもの。幼い頃は姉様がいた時は姉様と、そうでない時は母様と入ることが多かったし。大きくなってからは一人で入ることも少なくなかったわ。
だからほんの少し、抵抗があるのよねぇ。
「カチュネ、訊ねるのならわたくしにではなくミルミラに訊ねたほうが有効だと思いますわ。
わたくしよりも立派なものを持ってますもの」
「……本当だぁ。シェシィも立派だと思ったけど、そのシェシィよりもおっきいや」
「着痩せしますのね、貴女」
話が急に私に振られ、三対の瞳が私に――私の胸に集まる。思わず胸を隠して後退ったけど、その腕をカチュネに掴まれた。
えっど、私の乳はそこまで立派なものじゃないと思うんだけど。母様や姉様に比べればまだまだ発展途上だし、シェシィと比べたって……。
もにゅ。
「かっ、カチュネ!」
「大きな声を出さないでくださいな、はしたない。
でも、本当に立派。これなら〝豊穣の乙女〟はミルミラですわね」
寮の名前の由来となっている四季を司る乙女たち。その中でも秋の乙女は豊穣の乙女とも呼ばれ、豊かな実りの象徴とされる。その乙女は宗教画では黄金の稲穂のような金髪と豊かな乳を持った女性として描かれることが多い。
宗教画をはじめて見た時、その姿は「私」が見た巨乳様に似てると思ったわ。穏やかな気質の方とされると聞いて、すぐに母様に似てると思いなおしたけど。
そんなことよりっ。
「……手を、放して。お願い……っ」
カチュネの手の中で形を変えるその乳から、甘い刺激が脳に伝わって息があがる。頭がはっきりしてるから余計に羞恥に襲われていて、睨んでいるはずの眼も潤んで見つめているというのが正しいことになっていそう。
最悪っ。私がやりたかったのに。
「触り心地も最高。
何を食べたらこうなりますの? 恨めしいですわ」
「カチュ……ネっ!」
なんとか手を振り払って、その場にへたり込む。
もう、カチュネってば酷い!
改めて睨むと、カチュネは甘やかな笑みを浮かべた。悪いなんて、欠片も思ってない笑み。
「髪の色が残念といえば残念ですけど、どうせ髪など殆ど見えやしないのだから問題ありませんわね。
シェシィ、あたくしの視立てでは豊穣の乙女は貴女かミルミラで決まりだと思いますの」
「ミルミラに違いありませんわ、わたくしより相応しいですもの」
「うーん、僕はどっちも相応しいと思うけどなぁ」
へたり込んだままの私を無視して、三人は口々に言い合う。
豊穣の乙女ってどういうことなのかわからないけどっ、この状態の私を放置しないでよっ。なんだかいたたまれないじゃないの。
「人の胸を触って、それでどうして私が豊穣の乙女になるのよ。
私よりその名にふさわしい方はたくさんいると思うし、そんな敬称で一介の生徒が呼ばれるのはおかしいと思うわ」
呼吸が落ち着いたそこで、座り込んだ姿勢のまま三人に苦情を言う。立つにはまだ足に完全に力が入らないっていうのもあるし、乳を見上げるってのも……こう、なんていうか、くるものがあるから。
ウェニは特に、引き締まった腹部と発展途上のその膨らみとの対比が素敵なの。
「それを本気で言っているのであれば、ものを知らないにも程がありましてよ。ミルミラ。
貴女もご存じでしょう、四季毎に行われる乙女の祝祭は」
「……ええ、知っているわ。それがどうだというの?」
乙女の祝祭は、年に四度、春夏秋冬に行われる祭りのこと。春にはその年の繁栄を願い、夏には健やかな成長を、秋には豊穣に感謝し、冬には来年の平穏を願う。オフェニア教を信仰するこの国では、国をあげてのお祭になる。それは創造神オフェニアと九人の聖者を讃える建国祭と並ぶほど。
「その祭りで乙女役を務めるのはこの貴族舎の生徒と決まっていて、それは各寮の二年目でしてよ。
あたくしたちの中から誰が選ばれるか、その話をしているのですわ」
「はじめて知ったわ。では、この中から来年の秋の祝祭の乙女役が選ばれるのね。
どの方が乙女に選ばれるのかしら」
秋の乙女役の子は、いつも素敵な乳をしてるのよね。幼い頃は祝福を授けてもらう名目で抱きついて頬擦りしたもの。
そういえば姉様も乙女役をやられたわね。……でも、〝乙女〟ではなく〝女王〟だった気がするわ。冬の時分に、姉様の聖装を見た記憶があるもの。
「ですからその乙女役に貴女が選ばれるのではと、あたくしたたちは言ってるのですわ!
どうしてそう、自分を候補から外そうとなさるのです。貴女は!」
「カチュネ、何を騒いでいるんです? 他の方の迷惑になるから静かになさい」
私の態度が気に障ったみたいで、思わず怒鳴ったカチュネは――ちょうど入ってこられた、アルマ様に窘められた。
その後はアルマ様ともうひとりの指導官――オルミナ様指導のもと肌を傷めない洗いかたに始まり、香油を使った肌の手入れの仕方、湯で温まった時にやると効果的な軽い運動と続いた。
お嬢様方の中には、洗い方や手入れの仕方なんて侍女のすることと文句を言われた方もいたけど、それをアルマ様は一蹴された。貴女に仕える侍女は本当に信用出来ますの、と。
それに皆さん絶句。
一様に八代前の国王の御世に起こった事を思い出されたのだろう。
かの王は、立派な王であったと伝えられるのと同じくらい、好色であったと伝えられている。遠征で向かった場所で美しい娘を見初めては召し上げ、友好の証として各地の姫君や令嬢を娶ったという。その結果、最も多い時には千人近い女性が後宮にいたとか。
まさしく酒池肉林! 美女揃いの巨乳揃いだったに違いない。ああ、恨めしい。
それはともかく、その後宮にあがった方の中でも有名な方がおふたり。ひとりは正妃として嫁いでこられた大国の姫君。いまひとりは旅芸人の一座を城に招いた際に見染めた、元踊り子の寵妃。どちらも矜持が高く、それ故に己を高めることを忘れなかったためか……後宮の中でも常に王の愛を受けておられたという。目新しい若い小娘に一時入れ込んでも、やはりそなたが良いのだ、といった具合で。
そんな彼女たちのどちらが先に実行に移したのか、はたまた同時だったのか。それはわからないけれど、相手を陥れることで自分が優位に立とうとしたという。相手の侍女を買収してのあれやこれや。それらを見抜く力を持たなかった彼女たちは、結果的に侍女を信用出来なくなったふたりは全部自分でやるようになったとか。
その教訓として、水や茶葉、香油など、少なくとも侍女が目の前で扱うものは見抜けるようにしましょうって。そんな風に考える人たちが増えたとか。侍女たちも自分たちがどんな仕事をしてどんな苦労をしてるのか、それを主人が知って労ってくれたらうれしいものね。
「……よし、っと」
部屋に戻ってきた私は、身体が湯で温まっている内にと〝すとれっち〟。浴場でアルマ様に教わりながらやった運動だけじゃ、物足りないんだもの。
美しい乳のためには妥協は許されないの!
考えていたのは……まぁ、よそ事だったけど。
「ミルミラ、何をしていたの?」
湯上りは水分補給を怠ってはいけないと、部屋に戻った私たちの元には果実茶が届けられた。香りの強い柑橘を絞ったそのお茶は、湯上りに飲むのに相応しいすっきりとしたそれ。
カチュネとシェシィはそれを飲みながら、ウェニは身体をほぐす体操をしながら、私の様子を伺っていたというわけ。
「何って、体操? 身体の内の筋肉を鍛えて、それから……」
訝しるカチュネに説明しながら実践してみせると、説明し終わる時にはカチュネの目がらんらんと輝いていた。
「つまりは、その体操で貴女はその胸を得たのですね!」
「形の良い胸を保つためには、それを支える土台――筋肉が必要だと聞いたの。これはそのための体操。
大きくするためにはまた違う方法があるのよ」
これはカチュネの胸を揉む絶好の機会! とばかりに私は曖昧に微笑んで、さぁどうすると目で問う。
「それをあたくしに伝授してくださいな、ミルミラ!
あたくしには立派な胸を得て、見返してやらなくてはならない馬鹿者がいるのです!」
こぶしを握り、決意をあらわにカチュネが力説する。その思いに応えるように、私は笑顔で頷いた。
これで契約は成立。胸を大きくするという名目でカチュネの胸は揉み放題。
まずはひとり、ね。うふふ。
「そうと決まったなら、アルマ様に申請書類を出しに行かなくてはね。
ルイエの花茶、トトの実香油、シェダ木のお香。事前にお願いしてはあったけど、量が足りないわ」
茶葉や香のような嗜好品は個々の好みが強い。こういった類のものは申請すれば手配してもらえることになっている。
ものによっては許可されない場合もあると聞いたけど、ここは貴族舎。それも貴族の娘が通うには最高と呼べる場所。さっきサルビナ様が淹れてくれたお茶も、最高品質のキテ茶だった。だから豪華過ぎるという理由では却下されないだろうことは想像ついてるし、なにより私が申請したこのみっつは、名産品だけどあまり王都の貴族に好まれるものじゃないからそう高値はついていない。
「シェダ木のお香って、オーヴィク伯爵領の品ですよね?」
「ええ、そうよ、シェシィ。以前伯爵領縁の方から頂く機会があって、それ以来愛用しているの。
……知っていて、伯爵領の方々は皆さん立派な胸をされているの。特別なものを食べているわけではないとおっしゃられていたけど、シェダの木の香を焚き、ルイエの花茶を飲み、それからトトの実香油で身体を労わっておられるそうなの」
王都の屋敷で働いている侍女や下女たちの半分は所領から働きに来てるけど、残りの半分は王都の人だったり知り合いのお嬢さんを預かっていたりと様々。それでも圧倒的に所領の出の人が多いから、自然と所領の文化が主なものになっているそう。その結果、親戚にはささやかな胸の方ばかりなのに豊かな胸に成長したり、姉妹そろって母親を超える立派な胸に成長したりしたの。だから私は花茶か香、香油のどれか……もしくは全部に、「私」のいうところの〝女性ほるもん〟なるものを多く分泌させる何かがあるのだと考えているのよね。
実際それらを使った私の胸も立派に成長しているし。私の場合は遺伝の可能性も高いとは思うけれど。
「そうと決まれば話は早い方がよろしくてよ! 今すぐにでもアルマ様の元に参り、それらを手配して来なければなりませんわ!」
明日まで待てないとばかりに戸口に向かったカチュネに苦笑を浮かべつつ、それに付き合うために私もそれに習う。
「ミルミラ、聞いてもいいかな?」
「何かしら、ウェニ?」
だけどそんな私に、ウェニがいぶかしいとばかりに声をかけてきた。
さすがに白々しかったかしら? ウェニやシェシィ、カチュネなら、私がオーヴィク家の娘で――姉様の妹だって知っても、態度が変わるってことはないし黙っていてくれる気がしてるから、知られたら知られたで構わないとは思っているけど。
出来れば知られたくないというのも本音だけれど。
「ミルミラはさっきの運動を誰から教わった? 僕は家柄、普通は知られてない運動も知っているつもりでいた。だけどそれは知らない」
「知らなくても当然だわ」
微笑んで、どう答えるのが最適かしらと頭を動かす。
私のことは知られても構わない、だけど「私」のことは困る。だから馬鹿正直に、私の前世である「私」が知りえていた知識なの、なんて言えるわけがない。
「この運動は私が作り上げたものだもの。もちろん元となったものはあるわ、でもそれを今の形に完成させたのは私なの」
これは嘘じゃない。〝てれび〟などの情報媒体から「私」が仕入れた知識を、「私」が組み立てた。無駄なこととは知りつつも、豊かな乳を「私」は求めていたのだもの。
「どの運動がどの筋肉に効果があるかは?」
「おかしな事を聞くのね。
知らなくては理想の身体をつくることなど出来ないでしょう?」
少しきつい口調で、この話はこれで終わりと、暗に告げる。だけど当然納得が行くわけがないのよね。ウェニの私を見る目がきついそれだもの。
「何をしていて、ミルミラ! あたくしをどれだけ待たせれば気が済むのです!」
私とウェニが話し込んでいたことなんて気づいていないのか、そわそわしたカチュネが、待ちきれなくなって声をあらあげた。
「ウェニ、それを訊くことはミルミラの家を訊くのと同じことになるのではなくて?
今はそれを問うのは止めて、ミルミラが話してくれるのを待ちましょう」
険悪な空気をまとっていたウェニをなだめるようにシェシィは言うと、それに、と言葉を続ける。
「これ以上カチュネを待たせるのは良くないわ」
「カチュネ? どうしてここで彼女が……」
言葉の意味が理解出来なかったのか、ウェニは首を傾げて戸口を振り返って……そこで、びくりと肩をすくめた。元からつり目勝ちなカチュネの眼が、更に釣りあがって見える。
「そ、そうだね。ミルミラに問うのは後でも出来るね」
素晴らしい乳を求める乙女に逆らうなんて、無謀に決まってるもの。それに、ウェニもそれなりにあるのよね、乳が。男の人の手にちょうど納まるくらいの、丁度良い大きさに育つだろうのが。
だからウェニにはカチュネの思いが理解出来ないんだわ、きっと。
「ごめんなさい、ウェニ。話せる時が来たら話すと約束するわ。だから今は……」
納得のいってないウェニを潤んだ目で見つめることで言い含めて、そのいつかのために納得のいく説明を考えなきゃと、心の中でため息をついた。