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2.巨乳?……の卵ちゃんたち。


 私が十五歳までの三年間を過ごすことになる貴族舎は、王都から馬車で半日のところにある。創造主を奉る神殿に併設されていて、貴族の中でも今を時めく一握りの家の子女か素晴らしいお家柄の子女しか許されないようなところ。なんと再来年には、皇女様が入られるとか。

 そんな場所だからとぉっても豪奢。

「すごく立派」

 だから門を入った場所で立ちどまって、見上げてしまったの。

 こんなお城みたいな場所で巨乳を揉み放題の生活を送れるって思っただけで感慨深いものもあったのよ。

 だってこの貴族舎の別名は、白百合の園。百合よ、百合! 「私」の知識によると、女の子どうしでうふふあははする関係のことを百合って言うらしいの。

 これはもう私のために作られたと言って過言じゃないわよね!

 待っててね、私の巨乳ちゃんっ!

「ちょっとそこの貴女、そんなところに突っ立っていられては迷惑でしてよ」

 どこか高飛車な、だけど綺麗な声に私は我に返って声のした方を振り返った。

 そこにいたのは赤味がかった金茶の髪を結わえた、将来が楽しみな美少女。馬車を降りた時に紗を外したのか、その容姿を隠すものはない。少し釣り目がちな緑の目は猫みたいで、膨らみが皆無の胸は……さすがの私でも巨乳に出来ないんじゃないかと嘆きたくなるほど。だけど美少女に違いないわ。

「この程度の建造物に見惚れるだなんて、お家が知れてよ。

 だから血筋だけの鄙びた家の娘は嫌いなのよ」

 この美少女とお風呂でうふふあははが出来るのね。と思ったら、顔がついついほころんでしまうわ。

 だから暗に私の家を侮辱した発言は、不問にしてあげるわ。お嬢さん。

「道をふさいでしまってごめんなさい。

 私はミルミラ。良ければ名を教えてくださいませんか?」

「……カチュネよ。

 濃い金茶の髪と青灰の瞳とは珍しい色をしてるのね、貴女」

 私が被っていた紗を外しながら答えると、素性を探るように貧乳美少女……もとい、カチュネは私を見て、思い当たる家がなかったのか首を傾げた。

 貴族舎の規則のひとつに、学舎で学ぶ間はどんな家の子女も平等で家に縛られないというものがある。だから挨拶の時は家名を名乗ってはならないし、尋ねてはならない。だけどどこの家の子女か知ってしまうのは仕方のないこと。そのために少しでも貴族舎を出た後有利な人間関係を築くために、家にいる間、貴族方の顔形や色彩を頭の中に叩き込む。カチュネはその知識の中から私の家を推測しようとしたのだと思う。

 だけど残念なことに、私は父様とも母様とも似てない。父様は緑がかった金髪に同じ色合いの瞳、母様は淡く赤味がかった金髪と淡い青の瞳。その上、美男美女。それがどうなったのか分からないけど、私は濃い金茶の髪と青灰の瞳。面立ちもどこか「私」を彷彿させる何かがあることから、「私」の記憶を持ってることが原因なんじゃないかって勝手に推測してる。

 身に付けてるものも姉様から頂いた姉様の瞳と同じ鮮やかな青の飾り紐のほかは、学舎支給のものだけだし。

「あまり両親りょうおやには似ていませんから、私。

 カチュネ様、家の詮索はやめにしません?」

 微笑んで小首を傾げてみせる。

 実を言えば、私は彼女の家が推測がついてしまった。彼女は母親に良く似てる。辺境伯がひとり、南方伯の奥方で……碧玉の猫姫と呼ばれた女性と。

 娘のカチュネ様も奥方同様、猫みたいに気位が高いって噂。

「悪いことをしたわ」

 だけど私の似てない発言を聞いちゃまずいことの意味にとったのか、素直に謝ってくれる。気位が高いだけじゃないみたい。懐いてくれるかしら、楽しみだわ。

 ……成長しても貧乳そうなのが残念だけど。

「いいえ、気にしてませんから。

 もし宜しければ一緒に中に入りませんか。初めての場所だもの、ひとりよりはふたりのほうが心強いわ」

「それもそうね。

 貴女が迷子になってはあたくしもいい気がしないもの」

 さすがにここから学舎までの距離を迷子になったりしないと思うのだけど。

 そうは思ったけど、気位の高いカチュネの気を損ねる発言をするのは後で面倒臭そうだから言わない。

 先に歩き出したカチュネを追おうとしたそこで、彼女は足を止めて私を振り返った。

「ミルミラと言ったわね」

 出会って少ししか経ってないのに呼び捨てなの?と、ほんのちょっと不快に思いながら次の言葉を待つ。

「貴女のことはミルミラと呼ばせてもらうわ。

 その代わりと言ってはなんだけど、あたくしのことも呼び捨てで構わなくてよ」

 ……前言撤回。

 本当に、気位の高い猫そのものだわ。

「ありがとう、カチュネ」

 彼女との間を詰めて、隣に並ぶ。

 貴族舎初のお友達ってことでいいのよね。その貧乳を私の技術を駆使して、せめて微乳程度にはしてあげるからね!



 入口のところでカチュネに会って本当に良かったと、私は実感していた。

 なんでこんなに広いのっ!?って思わず叫びたくなったくらいには広いんだもの。私ひとりだったら迷子になったんじゃないかってくらい複雑だし。

 なのにカチュネは分岐で少し立ち止まっただけで、指導官室の前まで足を止めることがなかったの。

 凄いわ。

 感激したから素直にそう褒め称えたら、カチュネに怒られてしまった。同じようで、似てるようで、少しずつ違うのよって。

 仕方ないじゃない。私の暮らしていた王都のオーヴィク伯爵邸は庭こそ広かったけど屋敷は質素なものだったし、領地の屋敷も元々が要塞だっただけにひとりで出歩けなかったから常に案内つきだったんだもの。

「まあ、早々に特徴を覚えることね。

 この手の差異を見つけることは貴族舎を出た後も役にたつ事、王宮に出入りする者にとっては必須事項よ」

「頑張るわ」

 うん、ほんと頑張らないと。毎度毎度貴族舎内で迷子になるのは嫌だもの。

 こんなことなら、姉様見分けるコツを聞いておくんだったわ。地図は防犯面から駄目だけど、そのくらいなら問題なさそうだもの。

 巨乳の卵を見つけるより先に、迷子にならない術を見つけるほうが先だなんて……私悲しい。

「貴女たち、ふたりだけで歩いて来たの!?」

 指導官室の戸をくぐった私とカチュネを見て、指導官らしい女性が驚いた声をあげた。

 凛とした、といった雰囲気の女性で、高い位置でひとつに纏めた髪は赤く瞳も赤茶色をしてる。胸はあまり大きくはない。というか、小さいほうじゃないかしら。清貧な雰囲気の小ぶりな乳の女性はその胸を揉むときに恥らう姿が最高なのに。指導官じゃ一緒にお風呂とか無理よね、残念。

 それはさておき、歩いて来てはいけなかったのかしら?

 驚いた意味がわからなくて首を傾げてしまったのは私だけじゃなかったみたい。隣を見れば、カチュネも不思議そうに首を傾げている。

「内門のところに誰もいませんでしたので、こちらのミルミラとふたりで歩いて参りましたの。

 何かまずいことでも?」

「……いえ、貴女たちにとってはまずいことなど何もないわ。よくここまで来ることが出来ましたね、大変だったでしょう。

 わたしはアルマ、貴女たちの礼儀作法を担当する者です」

 改めて名乗りアルマ様に礼を取る。

 礼儀作法なんて、家で済ませて来てると思うの。だから単純な礼儀作法ではない気もするのだけど……まぁ、おいおい分かるわよね。

「疲れたでしょう、カチュネ、ミルミラ。

 何か飲み物を用意させましょう、休んでから部屋に案内させます。リメア、お茶をお願い出来て?」

 アルマ様が微笑んで、部屋の奥で机に向かっていた方に言う。

 返事をして立ち上がったその方は私たちと同じ白百合の園の制服姿。それも北に住む人たちに良くある淡い色の髪と瞳をした美少女で、これでもかというくらいに主張した大きな胸。

 リメア様と言うのね。嗚呼、是非ともお風呂をご一緒したいわ! じかにその立派な巨乳を揉んで、その張りと弾力を堪能させていただきたい!!

 思わずリメア様を凝視していた私をリメア様も見ていたかと思うと、無言で部屋を出ていかれてしまった。

 不躾に見つめてしまったから嫌われてしまったのかしら。

「リメアは用が無ければ指導官とも話さないのよ。

 だから気落ちすることはないわ」

 しゅんと気落ちした私にアルマ様は優しい声をかけてくださると、部屋に置かれた長椅子に座るように促した。

 促されるままに椅子に並んで座った私とカチュネに、アルマ様は改めて頭を下げられた。

「ごめんなさいね。本当なら、内門の中で貴女方を在学生が迎える手はずになっていたはずなの。

 この学舎はとても複雑でしょう、良く知った者がいなくては迷子になってしまうものだから」

 それでアルマ様は驚いていられたのね。納得だわ。

 でも、カチュネは迷った様子はなかったと思うのだけど。

「セルジオ卿の建築様式は複雑ですもの、仕方ありませんわ。でも、知ってしまえばこれほど分かりやすいものはありませんわ、アルマ様。

 所々に施されたセルジオ卿の〝遊び〟はひとつとして同じものはありませんし、一定の法則性を持っておりますもの」

 もっとも、その法則を見出すのが難しいのですけれど。

 私の疑問に答えるようにカチュネが言うと、アルマ様は目を細めてカチュネを睨むように見た。

「貴女は口が軽いようね、カチュネ。

 自分の知識をひけらかすのは勝手だけれど、それによって惹き起こされる事態を想像できていますか?

 セルジオ卿の手がけた建造物は王宮内にも存在します。心無い者が忍び込んだ場合、その最奥までの侵入を許すことになるのですよ。

 わたしやミルミラがそうでないと如何に断言できます? 誰かが盗み聞きしていないと如何に証明するのです?」

 そしてつらつらと紡がれる言葉。

 ちょっとした生活の知恵程度に聞いていたのだけど、これってそんなに重要な機密だったの? じゃあ、知った私は幽閉されたりするの?

 せっかく巨乳揉み放題の環境に来ることが出来たってのに!

 それは御免だわ!!

「貴女に関しては問題などありませんでしょう? 五彩伯がひとり、エーダ伯の妹君であられるアルマ様?

 ミルミラも、あたくしの感が問題ないと告げてますわ」

 自信満々に言いきったカチュネに、アルマ様はため息を漏らした。

 額に手を当て、疲れたように肩を落とす。

「まったく、だからわたしは嫌なのよ、感で生きているようなひとは。そういうところは母親にそっくりよ、カチュネ。

 それから、次からは感で全てを片付けるのはお止めなさい。

 指導官でさえ貴女たちの家のことはあらかじめ知らされてはいないのが実情なの、貴女は母親に瓜二つだから信じてもらえるでしょうけど、色彩だけが似てる者など掃いて棄てるほどいるのが現実なのよ」

 アルマ様はそう一度に言い切ると、私に視線を向けた。

 その赤茶の切れ長の瞳は、改めて見るとエーダ伯爵に良く似てる。髪の色は伯爵のそれよりもくすんだ赤だけど、瞳の色も髪の色も、エーダ伯爵家の色。

 どうして気付かなかったのかしらってくらい、特徴的なのに。

「ミルミラ、そういう訳ですのでカチュネの言ったことは内密にお願いします。

 他言するようなことがあれば、罰せられるのは貴女だけでなく家族郎党全てとなるでしょう」

 そんな重要なこと、カチュネは素性のわからない私に話したの!?

 姉様が知っていたとして、何も教えてくれなかった理由は分かったけど……逆に胆が冷えたわ。

「わかりました。

 このことは墓の中まで持って行きます。オフェニア神に誓って」

 姿勢を正し、この国の国教である創造神である神の名をあげて誓う。

 世界は創造神であるオフェニアが創り、九つの欠片を聖なる存在として世界の平穏のために遣わした。それが神話の概要。

 この国は神の子である初代国王が建国し、聖なる存在の意思を継ぐ者たちがそれを支えた。そう建国史では謳われている。

 だからオフェニア神に誓うことは神に誓うことであると同時に、国王に二心は無いと誓っているという意図にとれる。この国の人たちがやましいことはないのだと誓う時にはそうする。

 宗教という概念の薄かった「私」の知識のせいで、未だに納得出来ないものは多いのだけど。

「ええ、是非そうなさい。

 貴女のご家族のためにも」

 父様と上の兄様は絶対に知っていると思うけれど。

 という言葉は呑み込んでアルマ様の言葉に私が素直に頷いた、そこで戸を叩く音がする。それから控えめなリメア様の入室の許可を求める声が続いた。


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