一人でタンク役をしていた俺は追放されたはずなのだが、何かがおかしい
「右!ダイアーウルフが3匹抜けてきてる!」
後ろから聞こえた甲高い声に、急いでカバーに向かうと、今度は別の方から声がする。
「正面からゴブリンが来てるぞ!早くしろよ!」
次から次へと忙しい。
一匹は蹴とばし、一匹は怯ませ、もう一匹は引き連れたまま正面へと戻る。
仲間の方へは通さないように、あれこれとスキルを使いながら時間を稼いでいると、一匹、また一匹とモンスターが倒れていった。
普通はパーティの半分以上は前衛職なのだが、うちのパーティは前衛職が怪我で離脱したり、リーダーとの折り合いが悪く辞めていったりと、一人一人と減っていった結果、私だけが前衛職としてこのパーティに残っていた。
もちろん、複数人でやるような役割を一人でやっているものだから、戦闘中はほんとうに忙しい。
せめてもう一人居てくれれば、ちょっとした横槍にバタバタと行ったり来たりせずに済むのに。
今日もヘトヘトになりながら街へと戻ると、返り血に汚れた盾や鎧を洗っていた。
「最初は良かったのに、こんなブラック労働になるなんて。そろそろ転職でも考えようかなぁ...。」
一人で呟きながら、井戸の脇で掃除をしていると賑やかな声が近づいてきた。
リーダーのヨハンに、魔法使いのデボア、僧侶のクレア、アーチャーのウィリアム、鍛冶師のレーゲン、従者として荷物持ちのケントとシャル。
こんなにいるのに、前衛をやってるのは私だけ。
勇者として豪華な鎧や盾を持っているヨハンにも、前衛を手伝うように言ってみたことはあったのだが。
「俺はリーダーだぞ?万が一怪我でもしたらどうするんだ。文句言わずにちゃんと働けよ。」
取りつく島もなかったので、パーティの中では体格が良いレーゲンにも頼んでみたのだが。
「いやぁ、厳ついのは見た目だけで、血を見るのも苦手なんですよ。武具のメンテナンスが要るからとお供させていただいてますが、ほんとはこうやって旅をするのも怖いくらいで。」
こっちはこっちで違う意味で役に立ちそうにもない。
まぁ、そのうち誰か入ってくれれば、多少は楽になるのかなと今日も街の酒場へとパーティで向かって行ったのだが。
「おい、ハルク。お前クビな。役に立たないから、別のヤツを入れるから。」
突然の解雇宣告だった。
特に思い入れがあったわけでもないし、給料が良いわけでもなかったので、良い機会だったのかもしれない。
「あんな低級モンスター相手にあたふたしてるヤツなんて、俺のパーティに相応しくないんだよ。雑魚はスライム狩りとか、薬草摘みでもしてりゃいいんだ。」
その言い方には腹が立ったが、言い返したところでただ喧嘩するだけだ。
「わかりました。今日までの報酬はちゃんと払ってくださいね。」
もう、モチベーションもなかったので、私がそう言い放つとヨハンは銀貨の入った小袋を投げつけてくる。
「ほらよ。足引っ張ってるくせに、金が貰えるだけでもありがたいと思えよ。」
投げつけられた小袋は少し軽く、中身はあまり期待できないだろう。
これも文句を言いたかったが、関わり合うのも面倒になってしまっていた。
「では、お世話になりました。」
テーブルに運ばれてきていた食事に手も付けずに席を立つと、デボアも席を立った。
「めんどくさ。前からウザいと思ってたんだよね。私も辞めるから、今日までの分払って。」
そう言うと、ヨハンの隣を離れて私の方へと歩いて来る。
「当てもないんでしょ?次見つかるまで、いっしょに行こうよ。」
なんだか話が大きくなってきたような。
私だけが抜けるだけならまだしも、魔法使いはなかなか見つからないし、ヨハンはたいへんだろうなぁと思っていると。
「デボアちゃんが抜けるなら、ウチも抜けるわ。ウチの分もはよ払ってな。」
次は僧侶のクレアまで、席を立ってこちらに来た。
「それに、ウチはハルクにヒールしたいんよ。」
ただのパーティ内の付き合いかと思っていたが、そんなに想ってもらえていたのか。
損得関係とかではなくて、冒険を通じた絆というか、苦楽を共にした仲間というか、そういうのが大事だよなと思っていると。
「今日もダイアーウルフにちょっと引っかかれただけで涙目になってたし、この前オークと格闘してた時なんて、骨折れて顔真っ青になってたし、そういう痛そうなのを治すのが楽しいんよ。」
前言撤回。
クレアといっしょに居ると、酷い目に逢いそうな。
治せばいいわけじゃなくて、それまではちゃんと痛いんだけど...。
アーチャーのウィリアムも席を立つ。
「こうなると私も居る意味がありませんね。彼らがいなくなるなら、一人でやっているのと変わりませんし。」
合わせて、レーゲンも席を立った。
「ヨハンさんの装備だけなら、私は要りませんよね?田舎に帰ろうかなぁ...。」
次々とみんなが席を立ったせいで、ヨハンの前には一人で食べきれないくらいの料理が広げられていた。
デボアとクレアは私の方へ来て、ウィリアムとレーゲンは少し離れたところで立ち話をしている。
後は荷物持ちをしていたケントとシャル。
まだ若い孤児の兄妹で、ある村に寄った時に冒険へあこがれて付いてきていたのだが。
「シャル、どうしよう?お兄ちゃんやお姉ちゃんや、おじちゃんたちも辞めちゃうみたいだし。」
「私たちも抜けていいんじゃない?ヨハンについていっても、冒険できなさそうだし。」
二人は顔を見合わせると、席を立って私たちの方へ走ってくる。
「僕たちも付いていっていいですか?」
「私からもお願いします。雑用でも荷物持ちでもなんでもしますので。」
その言葉にクレアは邪悪な笑みを浮かべて、ケントの頭を撫でていた。
いや、その選択は誤っているかもしれない。ウィリアムとレーゲンの方に付いていった方がいいんじゃないか?
そうして、ヨハンは一人テーブルに取り残されていた。
「えーっと...。今までお世話になりました。」
私が頭を下げて背を向けると、デボアたちも会釈をしてから私に続いて店を後にする。
背後からはウィリアムとレーゲンの声も聞こえて、私たちに続いてきているようだった。
なにやら、罵声が飛んでいるような気もしたが、場末の酒場なのでそんなものだろう。
酒場の前に出ると、ヨハンを除いたパーティメンバーが揃っていた。
どうしたものかと思っていると、ウィリアムが切り出した。
「犬に噛まれたとでも思って忘れましょう。ヨハンがケチなので普段は行けなかったのですが、この先に小生のおすすめの酒場があるのですよ。よければみなさんでご一緒しませんか?」
互いに目を見合わせて、ニコリと笑うとみんなで右腕を天へと突きあげた。
「「「「「「「行くぞー!!!」」」」」」」
私+6名はパーティを脱退して、新たな冒険を始めることになったのだった。




