悪の華・前編
これは、10年以上前…。
山崎と加山が、まだ人間だった頃の話である。
「どうだ山崎、今度一緒に一狩り行かないか?久々にさ」
寿司屋のカウンターで日本酒をあおりながら加山が言う。
加山のその純粋な目に山崎は呆れ、ため息をつきながら烏龍茶を喉に一口流し込んだ。
「加山。お前ね、そんな遊びは卒業したんじゃなかったのか?」
「いいじゃねえかよ。いいネタ見つけちまって、久々に血が騒いで仕方ないんだ」
加山の言う「一狩り」とは、隠語である。
即ち、『人狩り』。
二人の隠れ家のようなものであるこの店でも、公に言うには憚られる言葉なのだ。
「まあ一応聞くけど、いいネタってのは何なんだよ」
何の気なしに言う山崎の言葉に、目を輝かせながら加山が言う。
加山「おう!昨日のニュース見ただろ、アレだよアレ」
「アレ?…ああ、もしかしてアレか」
山崎ははたと思い出す。
昨日、都心からやや外れた一軒家に押入強盗が入ったというニュースがあった。
一家の全員、夫婦と子供二人が殺されたらしい。
山崎の伝手から流れた情報によると かなり凄惨な殺され方をしたとのことだ。
もっとも、そこまではニュースでは流れなかったが…。
「まさかその犯人って、お前じゃないだろうな?」
加山ならやりかねない…そう考えた山崎が、凄惨な事件に似合わない軽口を叩く。
「おい山崎。いくらお前でも言っていいことと悪いことがあるぞ」
その言葉に、加山が少々憮然とした表情でそう返した。
「ああ、そうだな。悪かった…それで?」
「…犯人を見つけたんだよ。その事件の」
嬉しそうな加山の言葉に返事する代わりに、山崎は手に持っていた烏龍茶を一気に流し込んだ。
「いつだ?」
「ついさっき、お前と会う少し前だ。TOSHIKIから情報が入ってきたよ」
「そうじゃない。いつやる?」
その山崎の言葉に、加山が笑顔を浮かべ返す。
「へへ、待ってたぜその言葉!」
子供の頃からの付き合いだ、どう言えば山崎がどう動くのか、加山はとっくに知っている。
「今日の今日じゃなんだし、明日でも…」
「…いや、今日だ。これからやろう。もう場所もわかってるんだろう?」
「へへっ、しょうがねえな。ああ、誘ったのは俺だ。もちろん、異論はないぜ。
…よーし、大将!最後にかっぱ巻き握ってくれ!山崎にはノドグロな」
威勢のいい加山の注文に、山崎が苦笑する。
「勝手に決めるなよ。しかし、相変わらずかっぱ巻きが好きだな…」
「お前も知ってるだろ?ガキの頃から大好物なんだ。おふくろとの思い出ってな。
…ここと次のカネは俺が持つぜ、俺から誘ったんだしな」
「馬鹿言うな。お前に奢られるほど、困っちゃいないよ」
山崎は知っている。
加山がかっぱ巻きを頼む時は、ひどく機嫌がいい時という事。
そして、それを侮辱するという事は、死よりも恐ろしい結末が待っていることを。
[悪の華/BUCK-TICK]




