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君が咲く山 FINAL

加山が最後に死亡した日の、その次の日。

――オイカワは一日中家を出なかった。

出ることができなかった。


「オイカワくん、開けてよ。俺だよ、アスヒロだよ…」


昨日行方を絶ったアスヒロの声が外から室内に呼び掛けながら、アパートのドアを、ガンガンガンと激しく叩いている。

今は夜の9時だ。この日は朝から晩まで、アスヒロの声の主は休みなくドアを叩き続け、またずっと同じ言葉を叫び続けている。

「開けてくれ」「外に出よう」と。


声とドアを叩く音が止んだと思えば、他の声が響く。

「オイカワ、俺もいるよ。外出ようぜ」

と、コオジの声で。


それが止んだと思えば

「オイカワさん、もう大丈夫っすよ。外でましょうよ、ねえ」

と、次はタツボーの声で。


さらに、その次には

「オイカワ、あんまビビってるなって。外に出ないと体に悪いしね」

と、ヨシくんの声でもそう呼びかけてくる。


しかし、その優しそうな言葉に似合わず、声は無感情だった。


そして、ドアを強く叩く音は、一切止まないままに。


恐ろしくて、外に出ることはもちろん、覗き穴から外を見ることもできない。

しかし、まるで何かが腐ったような、ひどい臭いがする。

隣人は、管理会社はどうしたのだ。なぜ誰も来ないのだ。

当初は心の底から思っていたそんな疑問も、今はとうに頭から消え去っていてもう何も考えることができなかった。


「…チッ、つまんねえ」

不意に外からそんな声が聞こえた。今までとは違う声。

仲間たちの声とも違う…今日、初めて聞く声だ。

…オイカワは気づく。これは加山の声だと。


その一瞬、今まで止むことなく続いていた仲間たちの声が止まる。

その後、カンカンカンとアパートの階段を下りるような…。

リズミカルに金属の上を歩く音が聞こえた。

その音はどんどん小さくなっていき…そして、聞こえなくなった。


あたりは今までの喧騒が嘘のように、急に静かになった。

聞こえない。あの声が聞こえない。

仲間たちの声…耳に、脳にこびりついた呼びかけはもう聞こえない。

終始止まなかった、ドアを激しく叩く音も…今はもう聞こえない。


オイカワは朦朧とした意識で考える。

…助かった。

俺は助かったんだ。

自然と涙が流れ出てくる。嗚咽が止まらない。

動かせなかった体、恐怖と不眠で硬直した体を不器用に動かし、玄関のドアに向かう。

まずは何をしよう、そうだコンビニに行ってカレーを食べよう、いやうどんとおにぎりを腹いっぱい食べよう…。

そう考え、外に続くドアのノブに手を掛けた時だった。


「オイカワくん開けてよぉ~俺だよぉ~アスヒロだよぉ~」

アスヒロの声が、ドアの向こうから聞こえる。

瞬間、ドアノブを持つ手が止まる。


その後一瞬の間をおいて、激しく目の前のドアが叩かれる。

それは先ほどまでに叩いていたのと同じように…。

いやそれ以上に強い力で、ドアを激しく休みなく叩いた。

まるでドアを壊さんばかりの勢いで。


「オイカワくん開けてヨぉ~俺だヨぉ~ア死ヒロだヨぉ~」

「オイ力ワぁ~俺モいルよぉ~外出よウぜぇ~」

「才イかワさん、もウ大丈キッすヨ。外でま死ョうよ~ねエ」

「オイカワ、あンビってビΛΠお。ホら、外に出ないと§Ц死ね」


――次の日の日没。

仕事を終え帰宅しようとした加山がふと異変に気づく。

己の車-これも盗品なのだが-が盗まれていない。


「なんだつまんねえ、もうくたばったのか。

 やっぱり三流悪党はダメだな」


そう呟き、加山は車を発進させた。

まるで、ここ一連の騒ぎなどまるでどうでもいいというように。


…いや。


帰り道の途中、暗がりの公園で加山は車のスピードを落とす。

公園の砂場には、砂で作った山ができていた。

それを一瞥して、加山はハハッと笑うと、また車を走らせた。


――その砂山には、一本だけ花が咲いているかのように…腐った人の手が頂上から伸びていた。

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