君が咲く山④
日没、仕事を終え帰宅しようとした加山がふと異変に気づく。
己の車がない…どうやら、またまたまた何者かに盗まれたようだ。
「残りは二人だったな。さて、あいつらの根性見せてもらおうか」
そう笑った加山は、たまたま目に付いた、近くで電話をしている男を蹴り飛ばした。
電話の彼が何かをしたわけではない。
強いて言えば、たまたま加山の近くにいたのが悪かったのだ。
うめいて倒れた彼に唾を吐きかけ、加山は帰路に就く。
彼にとって人を傷つけることなど、寿司にマヨネーズをかけて焼くくらい普通の事だったのだ。
え?普通じゃない?そうですか。すいません私もそう思います。
まあとにかく、彼にとっては日常的なことだったのである。
さてさて、場面代わり。
ここ数日加山を殺害していたオイカワとアスヒロは、依頼主である『TOSHIKI』の事務所に訪れていた。
「もう俺たちでは無理です!手を引かせてください!お願いします!」
角刈りのオイカワがTOSHIKIに土下座をしながら懇願している。
「もう…もう、俺たちにはどうしようもありません!
違約金なら払います!絶対に払います!
ですから、どうか勘弁してください!」
青い髪の『アスヒロ』も同じく土下座をしている。
しかしそんな二人を見ずに、TOSHIKIは事も無げに言った。
「はー、まったく…使えねえやっちゃな。
まあええわ、手ェ引きたかったら引けばええやん。
ほんかわし、もう二度とここには面ァだすなや」
彼のその言葉に、オイカワとアスヒロはパッと顔を上げる。
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」
と感謝を伝えるが…。
関西人の中年らしい風貌をしたTOSHIKIは、竹串でマグロの寿司を炙りながら、『とっとと帰れ』と二人に手払いをする。
オイカワとアスヒロは何度も深く礼をしながら、TOSHIKIの事務所を後にした。
「首領、ええんですかい?あいつらァこのまま帰しちまって」
部下がそう進言するが…。
TOSHIKIは炙った寿司にマヨネーズをべったりかけて喰いながら、カカカと笑う。
「どの道アイツらはもう終わりや。加山に目ェつけられたんやからな。
ワシらがわざわざ殺すまでもないわ」
そう言ってTOSHIKIは机の上にあった海老寿司に竹串を刺し、また炙る。
「何度でも生き返る加山の秘密…。
それを知るためにあいつらを使ったが…結局なんもわからんかったな。
ま、ええわ。他にもいろいろ方法はあるしのー」
次の日、K市の海岸から特に外傷のない加山の死体が揚がった。
しかし、いつもどおり特に誰も気にすることなく、その事件は加山たった一人の無理心中というかたちで片付けられた。
…いや、一人だけ気にする人間がいた。オイカワである。
「なんでだあぁぁ!!なんでだよおおぉぉ!!
俺たちは何もしてないぞ!俺たちは何もしてないんだ!!」
TOSHIKIの部下が笑いながら本日の加山の死を知らせた時、オイカワはそう絶叫した。
アスヒロとは連絡が取れない。
彼もまた、消えてしまった。
他の仲間たちのように。
―次の日の日没、仕事を終え帰宅しようとした加山がふと異変に気づく。
己の車がない…どうやら、またまたまたまた何者かに盗まれたようだ。
「これで最後か」
そう呟くと、加山は笑い…。
目の前の他人の家に『山崎参上!』と赤のカラースプレーで文字を書いた。
もちろん、そこには何の意味もなかった。
それ以上でもそれ以下でもない、ただの迷惑行為である。




