君が咲く山③
日没、仕事を終え帰宅しようとした加山がふと異変に気づく。
己の車がない…どうやら、またまた何者かに盗まれたようだ。
「ははっ、懲りねえな。あいつらも」
そう笑った加山は、その辺に放置してあった自転車の鍵を無理やり外し、それに乗り帰路に就いた。
当然、加山の自転車ではない。だが、そんなことは加山には関係なかった。
その時…加山の車を盗んだ一味は、ある廃工場に集まり、密談をしていた。
彼らのチームは5人。
いつも同じメンバーでつるんでいたのだが…今日は3人しかいない。
「…絶対におかしいよ。あそこまでやって生きてるなんて。
あいつ、加山…絶対に人間じゃないよ」
ツーブロックの金髪の男『コオジ』が、恐怖に震えながらそう言う。
その横にいた青髪のメガネ『アスヒロ』も、彼に継いで言った。
「それに…タツボーもヨシくんも、連絡が取れないんだ。
家にも帰っていないみたいで、電話にも出ないし…。
さっきも試してみたんだけど…」
いつも5人のはずの彼ら。
だが、ここ最近はそのうちの2人…『タツボー』と『ヨシくん』と連絡が取れなくなっていた。
最初に加山を襲撃した日、まずタツボーが音信不通になった。
その時は『たまたま連絡が取れないのだろう』と、それほど特に気にも留めなかったが…。
次に加山を襲撃した日、ヨシくんとも連絡が取れなくなったのである。
彼ら5人も褒められた人間ではない。
ある人物に依頼された加山の殺シを躊躇なく引き受ける、言わば社会の闇に住む悪党だ。
国家を揺るがすような重大な犯罪以外には、たいてい手を染めている。
もちろんそのせいで、危険な連中に狙われたこともあるが、それでも…こんな事態は初めてだった。
「オイカワくん、やっぱりもうこの件から手を引いたほうがいいんじゃ…」
怯えたアスヒロが、彼らのリーダーである『オイカワ』に進言する。
オイカワは、自慢の角刈りを櫛で梳かすが…。
「やめるわけにはいかねえ…ここでやめたら、俺たちが殺されちまう」
そう言った。
そう、彼らに加山の殺害を命じた人間は、自分達よりもっと強大で、大規模な組織だ。
ここでやめれば、口封じや見せしめのために自分たちが殺られてしまう。
彼らから逃げ切れる自信はない。
そんな事を思いながら、オイカワはアスヒロとコオジに言った。
「…あんまりビビってんじゃねえぞ、テメエら!
だいたい今日も加山の車をもう盗んでるんだ、いまさら退けるか!
あいつが死なねえとか蘇るってんなら…二度とそうできねえようにしてやる!」
自分自身の怯える心を振り切るかのように、オイカワはそう叫んだ。
次の日、C市の海岸からまたもや加山の死体があがった。
今回はいつも以上に凄惨で、五体はバラバラにされており、もはや人間だと言われても信じられないほどだったが…。
それでも警察は加山の事故と認定し、この事件は終了した。
――そして同じ日、『コオジ』が姿を消した。




