君が咲く山②
日没、仕事を終え帰宅しようとした加山がふと異変に気づく。
己の車がない…どうやら、また何者かに盗まれたようだ。
「おい、またかよ」
新たに盗んだ車なので自分の懐が痛むわけではないが、それでもやはり腹立たしい。
そんな自分勝手で理不尽な怒りを抱きつつ…。
加山はタクシー会社に連絡を取るため、スマホを取り出した。
呼び出したタクシーの後部座席にどっかりと座り、ぶっきらぼうに行き先を告げる。
(前回も歩くなんて慣れねえことせずに、最初からこうすりゃよかったぜ)
ふと、加山は記憶を反芻させる。半グレ集団に襲われた時の記憶を。
あの時は衆寡敵せず殺されてしまったが、タクシーに乗っていれば、あの手の集団も襲いかかってくることもあるまい。
加山はそんなことを考えたが…。
彼を乗せたタクシーが、ふとスピードを緩めて止まった。
「おい、なんだてめえ。目的地まではまだまだ先だぞ」
加山は苛立ち前の運転席を蹴飛ばすが、運転手は何の反応もしない。
代わりの返事というように、加山の席のドアが開いた。
ここで降りろということなのだろう。
ふと外を眺めると、ここは以前半グレ集団に襲われ、自分が命を落とした公園だった。
加山は舌打ちをして、運転手に唾を吐きかけた。
怒り収まらず、タクシーを降りた加山が何度も車体を蹴っ飛ばしていると、ふと前から3人の男が歩いてきた。
その男の一人が加山に声をかけてくる。
「驚いたな、マジで生きてやがったのか。
いったいどんな生命力してるんだい、あんた」
見るとそれは角刈りの男―以前、自分の命を奪った男―だった。
加山は角刈りの男を気怠そうに一瞥する。
両脇に2人の男が腰ぎんちゃくのように立っている。
先ほどの運転手を含めれば4人…たしか、前回は5人の集団だった。
なるほど、前回から1人減っているとすれば数も辻褄もあう。
「耳を疑ったよ、あんたが生きてるって聞いたときは、さ。
ゴキブリでももっと往生際がいいぜ」
角刈りの男のその言葉を聞いた時、加山は理解する。
そうか。この男は自分を『殺し損ねた』と思っているのだ。
加山は口唇の端をニヤリと歪め、角刈りの男の前に立ち、しっかりと見据えた。
「で?俺が生きていたら、どうするつもりなんだ?」
以前の続きをやるつもりか…そう加山が言おうと思った時だった。
先ほどのタクシーの運転手が、加山の後ろにこっそり忍び寄り…。
ゴ ン ッ ! !
「へいべっ!!(悲鳴)」
鉄パイプをフルスイングで加山の後頭部にジャストミートする。
そのまま加山は意識を失った。
次の日、I市の海岸からチェーンでぐるぐる巻きにされた加山の死体があがった。
死体は前回以上に凄惨な暴行を加えられた跡があったが、警察は加山の自殺と認定し、この事件は終了した。




