夢魔-The Nightmare-・中編
――加山裁判はまだ続いている。
中年が大釜に飲み込まれた後…それは、まさに悪夢の一言だった。
新幹線の座席にて大声で電話をしたため『音速新幹線』の刑を処された若い男。
常連との会話に夢中になり新規客の注文を無視したとされ『注文蒸死』の刑を処された中年男性。
運転中、ウインカーを出さずに道路を曲がったとして『全身強制ウインカー』の刑を処された中年女性。
加山が称するその全ての罪は、ほんの些細なものだった。
そしてそれに似合わない、あまりにも重すぎる罰…いや、拷問。
そしてその罪の理由を問う加山に対し、被疑者は各々弁明するが…。
その全てを加山は棄却し、刑に処していった。
残された皆が卒倒しそうな惨劇が眼前で繰り広げられていく中…。
スピーカーの主―加山―は、低い笑い声を上げ続けていた。
ずっと。
『次!真ん中のお前!!』
ついに俺の番が来る。
恐怖で涙が止まらない。失禁もしてしまっている。
でも俺は、責められる謂れは何も…。
『貴様は在庫があるにも関わらず、問い合わせをした客に
そこになければないですね、と答えたな!
よって貴様は、『体液在庫処分』の刑に処す!!』
…何の話なんだ。
こいつはいったい何を言っているんだ。
頭がパニックになる。
そんなことで俺は殺されるのか!?
嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ!!
今までの犠牲者と同じように、俺も必死に抵抗し、拘束を外そうと試みる。
全力を振り絞って暴れ、やっとのことで、俺はなんとか猿ぐつわを外すことに成功した。
「やめてくれ!俺が、俺が悪かったから、謝るから…。
許してくれ!許してください!」
はっきり言って、宣告された俺の罪状など、何にも記憶にない。
だが何より、死にたくない。
それもこんな理不尽な、拷問のようなやり方で死にたくない。
死にたくない!
『なんだ貴様!謝るくらいなら最初からやるな!
それならば、なぜあのようなことをおこなった!?』
スピーカーを通して加山が笑いながら俺にそう怒鳴りつけるが…。
俺には、そもそも加山が指摘した事実が思い当たらない。
確かに俺は店員ではあるが、そもそも店は外食チェーンレストランだ。
販売店のように客に問われて在庫の確認など、あまり起こりえない。
ましてや、そこになければないですね、など答えるはずがない。
「記憶にありません!本当に記憶にないんです!
ですがそんなことは絶対にやりません!今後も行いません!
だから…だから、どうか、許してください!!」
『記憶にない?フフフ、フハハハ…ハーッハッハッハ!!』
しかし加山は低い声で笑いながら…俺の懇願には答えない。
そして、白装束の夢魔達が、やたら大げさな、言葉にできないほどおぞましい機械を俺の前に運んでくる。
巨大なポンプと管が数本あるその装置。
夢魔がそのスイッチを入れると、異常な唸り音とともに、恐ろしい勢いでポンプが吸引を始め…。
それを、俺の目に近づけてきた。
『体液在庫処分』…。
その言葉の意味が分かってしまった俺は、断末魔の叫びをあげた。
「うわあっ!やめろ、やめろ!!やめてくれ!!うわ、うわああああっ!!」
―――――――――
「…はっ!?」
俺は布団から飛び起きた。
しばし呆然とする。
…しばらく深呼吸して落ち着いた後、あたりを見回す。
全身は冷や汗でぐっしょり、失禁もしている。
「…夢…だったのか…?」
加山裁判…そのあまりにも、リアルで恐ろしかった惨劇。
あれは、ただの悪夢だったというのか。
「助かった…」
そう呟いた後、漏れ出た笑いとともに、俺は涙を流した。
…俺は助かったんだ。
夢であったことに心から安堵し、大きくため息をついた。
「はあ…本当に嫌な夢だった…ん!?まずい、もうこんな時間か!」
時計を見ると、すでに出勤時刻まで間もない時間だ。
こうしてはいられない。
すぐにシャワーを浴びて着替え、俺は慌てながら職場のレストランへ向かった。




