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悪の華・後編

夕日は落ち、すでに夜のとばりが幕を下ろしている。

海岸沿いのひとけのない古びた倉庫。

寿司屋での食事の後、そこに山崎と加山はいた。


子供の頃から二人が何をたくらむにしてもここが拠点だった。

子供の頃の他愛ない悪戯から、某国の革命を企てた時まで、すべての行動はここで決められていた。


「山崎、ここに来るのも久しぶりだろ。ここならなんでも揃ってるぜ!」

酒が入り、意気揚々とした加山が言う。

周囲には日本刀やショットガン、マシンガンといった世界中の戦闘用武器に混じり、何に使うのか想像したくもないようなおぞましい拷問器具も備えられている。

まるで武器の見本市ともいえる様相だ。


「お前なあ…ここまで揃えてどうしようってのよ。戦争でもするつもりか?」


「いいじゃねえか。俺が買ってやらなきゃ、こいつらも困るだろ?

 俺には聞こえるんだ…。

『俺たちは使われるために生まれてきたんだ』ってこいつらの嘆きがな」


「やれやれ。まさか、次は核兵器でも揃えるんじゃないだろうね」


「お望みならな。まあ、ちょいと苦労しそうだが」


話が止まらない加山に背を向け、山崎はある一点へ向かう。

「うん、これだな。俺はコイツを使うか」

そう言いながら、お目当てのものをみつけた山崎は、その壁にかけてある携帯用ガスバーナーを手に取った。

「さすがだな山崎。目利きは超一流だぜ」

笑いながら加山が言う。


このガスバーナーはもちろんただの市販品ではない。

加山が特注した超火力のものだ。


「いつだったかな、俺を捕まえたと勘違いしたハゲから聞いてさ。

 高火力のガスバーナーで人体を切断すると

 熱で切断面が凝固して血が流れないらしい。

 だから、失血死せず人体を切断し続けられ

 死ぬこともできない地獄の責め苦が続くらしいんだ

 まあ、詳しく聞いたわけじゃないけどね」


「そのハゲには試さなかったのか?」


「そいつの持ってたの、粗悪品でさ…市販品かな?

 切断できなくて普通に死んじまったよ。

 だから今回試そうと思ってんだ」



「そうだな、それは俺も見てみたいぜ」

鋭く光る、まるでホラー映画に出てくるような巨大なはさみを片手で弄びながら、加山が笑う。

「よく言うよ。だからお前も用意していたんだろ」

加山に背を向けたまま、山崎が声を発する。

山崎には加山の顔は想像できた。

おそらくとても純粋で、喜びに満ち溢れ、まるで好奇心のまま虫を惨殺する子供のような表情だろう。


「そういえば、そいつら…犯人ども、どこにいるの?というか何者?」


「悪事ばっかり働くアンちゃんたちだってよ。確か四人。

 実は、そいつらの隠れ家はここからそう遠くないぜ」


「なるほどね。じゃあ、逃げられないうちに早めに行こうか。プランは?」


「まず速攻で二人をる。

 次の一人は…そうだな、ちょっと派手に行こうか。最後の一人はビビるだろ。

 そいつはここに拉致らちって、そいつらが被害者にしたことの百倍返しで行こうぜ」


「…やれやれ…」


苦笑しながら、山崎は倉庫を出る。拳銃を持った加山もそれに続く。

二人で車に乗り込みエンジンをふかし、派手なエンジン音が夜の闇に奏でられる。


「道案内は頼むぞ」


寂れた海岸に似合わないエンジン音を立てた後、山崎の車は闇に消えた。


――次の日、身元不明の死体が三つ海から上がった。

二人はそれぞれ心臓と眉間を綺麗に撃ち抜かれて即死だったが、もう一人は言われなければ人と気づかないほど…。

いわばブルドーザーで全身を潰されたようなむごたらしい死に方をしていた。


また、知る者は彼らが四人組だと知っていたが、残り一人の行方はようとして知れなかった。


――――――――


時は現在、あの時と同じ行きつけの寿司屋で、山崎はひとり当時の事を思い出す。


その事件の後、四人組の殺害は組関係の抗争や、見つからなかった一人の裏切りなどと話題が上がったが…。

その後流れた芸能人の結婚や不倫、政治家の汚職のニュースに、いつしかその事件も風化していった。

そして、世に数多くある未解決事件の一つとして…。

その事件は物語に姿を変えて、世の中に刻まれた。


(…若かったな。いや、若すぎた…あの頃は)

ノドグロの刺身をつまみながら、山崎が回想する。


あの頃は、法で裁けぬ悪を、より強力な悪で踏みつぶすことが正しいと思っていた。

いや…それが快感だったのだ。


しかしその後…。

加山はさらに嗜虐性しぎゃくせいを増していき、誰にも止めることができなくなった。

目に映るものなど、すべて自分の玩具であるというように。

その牙はかつて仲間だった自分や、TOSHIKIにまで向けられることもある。

死んでも殺しても何度でも蘇るようになり…。

いつしか人間ではない、いわば悪魔と呼ぶような存在になってしまった。


――もっとも、それは自分も、なのだが。


「…大将。さいきん、加山って店に来てる?」

山崎が何気なくそう呼びかけるが…。


「加山さん?えーっと…。

 ああ、山崎さんと昔よく来てた、かっぱ巻きの方ですか。

 うーん…ここ5、6年は、お姿をお見掛けしてないですねえ」


大将のその返事に、山崎はフッと笑う。

この店に訪れなくなった理由はなんなのか。

…人間だった頃のことを忘れてしまったのか。

…それとも、昔の思い出に触れたくないからなのか。

…あるいはただ単に、気紛れなのか。


その答えは考えてもわからない、と、山崎は烏龍茶を一気に飲み干した。

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