『偽物聖女と弾劾されて第1王子に婚約破棄されましたが、転生者の記憶が復活し、他国でモフモフたちとスローライフします』みたいなテンプレ山盛り小説は私には書けない
クリスマス・イブには赤プリで恋人とお泊し、恋人がサンタクロース。街には山下達郎の『クリスマス・イブ』の曲が溢れかえっていた。そんな時代が私の20代前半の頃だった。
すぐにバブルは崩壊し、私も売れ残りのクリスマスケーキの歳になった。
そんな私の気持ちに応えるかのように、山口智子は金妻の脚本家の鎌田敏夫作の『29歳のクリスマス』でアラサーの女性を演じ、私は木曜の夜になるとブラウン管TVの前で、夕食のカップラーメンをすすりながら、ドラマの世界に没頭した。まだ、今よりもいい時代だった。
そして、時が過ぎ、今の私は羽根がボロボロの羽根ペンで売れない小説を書いている還暦の喪女だ。
何故羽根ペンで小説を書くのか。
それは流行りのAIに対するささやかな抵抗だ。
まあ、普通なら万年筆だろうが、それでは凡庸だ。
作家は、凡庸なものを嫌う。非凡で誰もまだ書いたことのないものを書きたいのだ。
だから、ペンにもこだわるのだ。
しかし、そういう作品は売れない。
売れるのは、柳の下のドジョウのテンプレ作品だ。
例えば、小説家になろうの異世界恋愛小説。
『偽物聖女と弾劾されて第1王子に婚約破棄されましたが、転生者の記憶が復活し、他国でモフモフたちとスローライフします』みたいなテンプレ山盛りの衣の厚い油まみれの天丼みたいなやつが売れるのだ。胃もたれしそうだ。ゲップ……。
しかし、私にはそんな小説は書けない。
私が書くのはこんな小説だ。
時間という純粋持続における脳内を超えた意識の向こうを直観的に把握した主人公が、マッチングアプリで出会ったAIと恋に陥るが、そのAIが実はなりすましで、異国の同性のリアルな人間だった。ついに2人はリアルで邂逅し、性別や民族、国を超えた真の愛を知り、純粋持続の意識の中で永遠の歓喜を見出すというストーリーだ。
こんな素晴らしい小説なのに、誰も読んでくれない。
一次選考にも通らない。
でも、私はへこたれない。
今日もカップラーメンをすすりながら、羽根ペンにインクを浸し、山下達郎の『クリスマス・イブ』をBGMにして、新しい物語を紡ぐ。
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