第2話 弱者の一歩
リナを乗せた馬車が消えてから、村は急に色を失った。
朝になっても、どこか薄暗い。
ユウの胸の中だけが、今までよりずっと重たく沈んでいる。
家に戻ったユウを迎えたのは、ため息交じりの視線だった。
「……ユウ。あんた、残念だったね」
母の言葉は優しいものの、どこか申し訳なさそうで。
期待が大きかった分、落胆も大きいのだろう。
「拳撃強化って……殴るだけじゃないか。しかも弱いってさ」
「はは、たしかにな」
笑って答えたユウの声は、引きつっていた。
本当は悔しくて、喉が焼けるように苦しかった。
でも泣くなんてできない。
リナが泣いていたから。あの時、自分のために。
(強くならなきゃ……)
そう思えば思うほど、焦燥だけが募る。
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村の目は冷たかった
翌日。村人たちの態度は急激に変わった。
「聖女様と一緒にいた、あの子だ」
「弱者のくせに図々しく聖女に近づいた罰だよ」
「祝福の差って、残酷ねぇ」
遠くで囁かれる声。笑う声。ため息。
――怖かった。
だが、ユウは拳を握り返す。
(俺は……俺は、あの手を放しちゃいけなかったんだ)
爪が手の平に食い込む。
痛みで誓いが強固になっていく。
『絶対迎えに来て……!』
耳にこびりついたリナの泣き声が、心を締めつけた。
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決意の夜
数日後。
満月の光が村外れの丘を照らしていた。
ユウは、たった一人で走っていた。
息が苦しい。
足が棒のように痛む。
拳は擦りむけ、血が滲む。
弱い。
それが、今の全てだ。
だけど――
「弱い俺じゃ……守れない……!」
走る。
転ぶ。
立ち上がる。
何度でも。
胸の奥にあるものを確かめるように、拳を振るう。
その瞬間、身体が少しだけ軽くなる。
「……これが、俺の力」
拳撃強化(弱)。
笑えるほどちっぽけなスキル。
でも、その力は確かに存在していた。
(この拳で……リナを取り戻す)
涙なのか、汗なのか分からない雫が頬を伝う。
月に向かって拳を突き上げた。
「俺は――必ず迎えに行く!!」
夜空に叫びが響き渡る。
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村を出る覚悟
帰宅したユウは、父と向かい合っていた。
「……王都へ行くのか」
「ああ」
「何も持たずに行くつもりか?」
「拳がある」
「弱い拳だぞ」
「わかってる。だから強くする」
父はしばらく黙った。
そして、ゆっくりとユウの額へ手を置いた。
「――生きろ。絶対に、死ぬな」
その言葉を聞いた瞬間、ユウは泣きそうになるのを必死に堪えた。
「ありがとう、父さん」
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出発
翌朝。村の門の前。
荷物は少ない。
唯一の宝物は、リナとの約束。
「行ってきます」
短い言葉に全てを込めた。
振り返らない。
立ち止まらない。
弱者が、弱者のまま踏み出す一歩。
それこそが――
英雄になるための、最初の一歩だった。




