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幼馴染の聖女が王都へ行ってしまったので、最弱スキルの俺は絶対に迎えに行くと誓った。──そして俺は世界最強の拳を手に入れる  作者: 海鳴雫


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第185話 失うことを知って、それでも

踏み込んだ直後から、違和感ははっきりと現れた。


息が、うまく入らない。

胸が締めつけられるように重く、視界の端がわずかに欠けている。


闇核変異体第二号は、その隙を逃さなかった。


巨体が軋む音とともに踏み込み、腕のような肉塊が叩きつけられる。

ユウは避けた――つもりだった。


だが、遅れた。


衝撃が肩を掠め、身体が大きく揺らぐ。


(……今の、遅かった)


そう認識した瞬間、音が追いついてくる。

衝撃音が、後から響いた。


時間が、ずれている。


第三段階に一歩踏み込んだ反動が、即座に牙を剥いていた。


第二号は、もはや無差別に暴れてはいない。


完全に、ユウを見ている。


拳の軌道を読み、動きに合わせて身体を捻る。

攻撃が、明らかに洗練されてきている。


(……学習してる)


理解した瞬間、肉塊がフェイントを混ぜて振るわれた。


ユウは拳で弾き、踏み込んで打ち返す。


今度は、通じた。


表皮を越え、内部に衝撃が響く。

肉塊が大きく歪み、低い唸り声が漏れる。


だが、再生は止まらない。


「……っ」


ユウの膝が、僅かに落ちた。


その横を、レオが走り抜けた。


無理をしているのは、誰の目にも明らかだった。

息は荒く、血が滴っている。


それでも、剣を振る。


第二号の注意を逸らし、ユウの前に立つ。


「……まだだ」


短い言葉。


「お前が前にいる限り……終わらせない」


その背中が、ぐらついた。


次に攻撃を受ければ、立っていられない。

それでも、退かない。


ユウは歯を食いしばった。


光核が、再び強く脈打つ。


だが、先ほどとは違う。


力を吐き出せと急かす声ではない。

問いかけだ。


(……何を、失う覚悟だ)


その瞬間、視界が揺れた。


目の前にいるレオの輪郭が、一瞬だけ曖昧になる。


(……誰、だ)


言葉が、頭に浮かばない。


名前が、出てこない。


心臓が跳ねる。


だが、次の瞬間、戻った。


(……レオ)


分かる。


これは、体力の消耗じゃない。

痛みでもない。


第三段階の代償は――

“自分が自分でなくなる恐怖”だ。


逃げる、という選択が頭をよぎる。


一歩下がれば、時間は稼げるかもしれない。

撤退も、不可能ではない。


だが、視界の端に映るものがあった。


血を流しながらも踏ん張るレオ。

必死に陣形を保つ騎士団。

その向こうに見える、王都の灯り。


(……ここだ)


ここで退けば、

この恐怖からは逃げられる。


だが、それは――

守るべきものを、後ろに置いていくということだ。


ユウは、拳を下ろさなかった。


(失うかもしれない)


(それでも)


(今、退く理由にはならない)


ユウは、意識的に呼吸を整えた。


感情を、押し殺す。

恐怖も、焦りも。


胸の奥で、光核が静かになる。


暴れない。

先導もしない。


ただ、ついてくる。


(……これが)


第三段階の、もう一つの形。


制御の、芽。


ユウは、再び踏み込んだ。


拳が、確実に内部へ届く。

一撃、また一撃。


第二号の肉体に、明確な損傷が刻まれていく。


再生は続く。

だが、確実に、遅れている。


戦況は、押し返している。


勝てない。

だが、負けてもいない。


闇の深層。


ラグナが、苛立ったように舌打ちした。


「……しぶとい」


影の主の声が、静かに返る。


「まだ使うな」


「彼の“限界”を、見極めろ」


ラグナは、歯を噛みしめる。


消耗戦。

それが、選ばれた一手だった。


戦場で、ユウは理解していた。


このまま戦えば、

確実に、何かを失う。


それでも。


拳を、構える。


(だからこそ……次が必要だ)


真の制御か。

あるいは、別の答えか。


その選択は、まだ先にある。


だが――

逃げないという決意だけは、揺らがなかった。

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