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幼馴染の聖女が王都へ行ってしまったので、最弱スキルの俺は絶対に迎えに行くと誓った。──そして俺は世界最強の拳を手に入れる  作者: 海鳴雫


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第183話 届かない拳

前線は、もはや“線”と呼べる形をしていなかった。


闇核変異体第二号は、ゆっくりと歩いてくる。

暴走でも突進でもない。ただ、確実に距離を詰めてくる。


その一歩ごとに、地面が軋み、空気が沈む。


騎士団の陣形は、何度目かの立て直しを強いられていた。

盾は割れ、魔法は弾かれ、倒れた仲間を引きずる腕が震えている。


「下がれ……! 後退だ……!」


声は出ている。

だが、誰も“勝てる”とは思っていない。


それでも立つのは、後ろに街があるからだ。


その戦場に、二つの影が走り込んだ。


ユウと、レオ。


土埃の向こうで誰かが気づき、息を呑む。


「あれは……」


「……来たのか」


安堵と、恐怖が同時に胸を打つ。


来てほしい。

だが、来てしまった。


その矛盾が、誰の顔にも浮かんでいた。


ユウは、迷わず正面へ出た。


拳を握る。

構える。


視界の先にいる“それ”は、影とはまるで違う。

肉と闇が絡み合い、表皮の奥で脈打つ核が、重く主張している。


(……硬い)


まだ触れてもいないのに、そう分かる。


だが、退かない。


ユウは踏み込んだ。


一撃。


渾身の拳が、第二号の表皮に叩き込まれる。


鈍い音。


確かな手応え。


だが――


砕けない。


表面が歪み、抉れはする。

それでも、内部に届かない。


次の瞬間、反撃が来た。


腕のように伸びた肉塊が、横薙ぎに振るわれる。


ユウは腕で受け、地面を削りながら吹き飛ばされた。


「ユウッ!」


声が、遠くで響く。


レオが前に出た。


剣を構え、間合いに飛び込む。


斬る。

叩く。

蹴る。


動きは鋭い。


一瞬、何かが“跳ねた”ように見えた。


第三段階に近い兆し。


だが――


届かない。


第二号の一撃が、レオの身体を正面から捉えた。


鈍い衝撃音。


レオは地面を転がり、止まらない。


血が、砂に滲む。


戦場が、さらに傾く。


騎士団が後退し、視界の端に王都の灯りが見え始める。


「……もう、止められない……!」


誰かが、絞り出すように叫んだ。


その言葉を、否定できる者はいなかった。


ユウは、膝をついた。


息が荒い。

拳が、震える。


胸の奥で、光核が強く反応している。


使え。

解放しろ。


そう囁かれている気がした。


だが――


(……違う)


分かる。


今、使えば届くかもしれない。

だが、それは“制御”じゃない。


ただの解放。

戻れなくなるやつだ。


失う。


何をかは分からない。

でも、確実に。


それでも、ユウは立ち上がった。


ボロボロでも、拳を構える。


勝つためじゃない。

倒すためでもない。


ただ――


「……ここは、通さない」


時間を稼ぐために。


第二号の動きが、変わった。


今まで無差別だった視線が、

はっきりと、ユウを捉える。


狙いが、定まった。


遠くで、何かが笑った気がした。


闇の深層。


ラグナの声が、低く響く。


「……いい。反応した」


戦場で、ユウは拳を構え続ける。


背後で、血を流しながらレオが立ち上がる。


前方で、闇核変異体第二号が、構えを変える。


勝てない。

それでも、退かない。


その現実だけが、重く、確かにそこにあった。

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