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幼馴染の聖女が王都へ行ってしまったので、最弱スキルの俺は絶対に迎えに行くと誓った。──そして俺は世界最強の拳を手に入れる  作者: 海鳴雫


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第182話 選ばれたのではなく、選ぶ

王都郊外の前線は、すでに限界だった。


闇核変異体第二号は、ゆっくりと前進している。

暴れ回るわけでも、無差別に破壊するわけでもない。


ただ、確実に――王都へ向かって。


騎士団の陣形は何度も組み直され、そのたびに薄くなっていった。

剣は弾かれ、魔法は表皮で散り、矢は再生する肉に飲み込まれる。


「下がれ! 負傷者を後方へ!」


命令は飛ぶが、声には焦りが滲む。

足止めすら、できていない。


誰も口にしない。

だが、全員が理解していた。


――このままでは、王都に届く。


ギルド本部。


報告が、途切れなく届く。


「騎士団、戦線を維持できません!」


「冒険者部隊、撤退しながら対応中!」


沈黙の中で、幹部の一人が、ついに言った。


「……ユウを出すしかありません」


代表は、すぐには答えなかった。


深く息を吸い、ゆっくりと吐く。


「命令は出さない」


はっきりとした声だった。


「彼は戦略兵器じゃない」


「誰かの判断で、前に押し出す存在でもない」


代表は、視線を上げる。


「選ぶのは、彼自身だ」


それが、ギルドの線引きだった。


カレンは、受付に立ったまま、手を握りしめていた。


被害報告。

前線の状況。

刻一刻と悪化する数字。


その中に、ユウの名前はない。


安堵と、不安が、同時に胸を締め付ける。


行ってほしい。

でも、行ってほしくない。


(……それでも)


カレンは、目を閉じる。


(ユウは、自分で決める人だ)


それを、信じるしかなかった。


治療所。


ユウは、ベッドの端に腰掛けていた。


立ち上がろうとすると、全身に鈍い痛みが走る。

昨日の戦闘の反動が、まだ抜けきっていない。


それでも、胸の奥が静かに、強く脈打っている。


光核。


叫ばない。

暴れない。


ただ、待っている。


(怖い)


正直な気持ちだった。


負けるかもしれない。

死ぬかもしれない。


それでも。


「……それでも行くって決めたのは、俺だ」


ユウは、ゆっくりと立ち上がった。


拳を握る。


武器はいらない。

これが、自分の戦い方だ。


扉の前に、レオが立っていた。


状況は、もう聞いているのだろう。


「……今回は、俺も行く」


ユウは、首を振りかけて、止めた。


「危ない」


「分かってる」


レオは、視線を逸らさない。


「一人で背負わせるな」


短い言葉だった。


だが、重かった。


ユウは、しばらく黙り、やがて小さく頷いた。


二人は、並んでギルドの門を出た。


誰も止めない。

誰も命令しない。


ただ、視線だけが集まる。


祈るような目。

託すような目。


それらを背に、二人は歩き出す。


前線に近づくにつれ、空気が変わった。


重い。


圧迫されるような魔力。


その中心に、闇核変異体第二号がいる。


ユウの胸の奥で、光核が応えた。


これまでとは、違う。


荒々しくもない。

制御を求めて暴れることもない。


静かで、深い。


(……今までと、違う)


ユウは、そう直感する。


第三段階は、力を振り回すものじゃない。


選択に、応えるものだ。


視界の先。


崩れかけた前線。

必死に立つ人間たち。


ユウは、拳を強く握った。


逃げない。

使われない。


俺は――


俺の意思で、ここに立つ。


その一歩が、戦場へと踏み出される。

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