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幼馴染の聖女が王都へ行ってしまったので、最弱スキルの俺は絶対に迎えに行くと誓った。──そして俺は世界最強の拳を手に入れる  作者: 海鳴雫


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第180話 嵐の前

王都は、かろうじて形を保っていた。


崩れた建物はない。

炎に包まれた通りもない。


それでも、街は明らかに“戦後”の顔をしている。


通りを行き交う人々は少なく、足音は早い。

笑い声は聞こえず、代わりに低い囁きが増えた。


騎士団の巡回は倍増され、交差点ごとに武装した兵が立つ。

冒険者たちは交代制で警戒に回り、酒場は静まり返っていた。


守れている。


そう言えなくもない。


だが、安心している者はいなかった。


ギルド本部では、簡易的な戦況会議が開かれていた。


代表と幹部数名、そして騎士団からの連絡役。


「影の発生頻度は、昨夜から低下しています」


報告役が淡々と告げる。


「大規模な同時発生は、現時点では確認されていません」


幹部の一人が、顎に手を当てる。


「……敵は、様子見か」


代表は、すぐには答えなかった。


地図を見つめ、赤い印の位置を確認する。


「可能性は高い」


そう前置きしてから、続ける。


「だが、沈静化ではない」


「一時的に、引いているだけだと考えるべきだ」


騎士団の連絡役が頷く。


「こちらとしても、大規模侵攻の兆候は見られません」


「当面は、局地的な対応になるかと」


つまり。


人間側の認識は、こうだ。


――まだ猶予はある。


ユウは、治療所の簡易ベッドに横になっていた。


体の痛みは、昨日よりも引いている。

包帯の下で、筋肉がじんわりと熱を持つ程度だ。


だが、落ち着かない。


胸の奥にある光核が、妙に静かだった。


いつもなら、微かな脈動を感じる。

存在を主張するような、低い鼓動。


それが、今はほとんど感じられない。


(……静かすぎる)


嫌な予感が、背中を這う。


嵐の前の静けさ。


理由は分からない。


だが、直感が告げていた。


(近い)


治療所の外。


レオは、壁にもたれながら剣の手入れをしていた。


刃を磨きながら、ふと呟く。


「……影より、もっとヤバいのが来る気がする」


隣にいた冒険者が、苦笑する。


「考えすぎだろ」


だが、レオは否定しない。


根拠はない。


それでも、胸の奥がざわつく。


経験が、そう言っている。


闇の深層。


光の届かない場所。


巨大な円形の空間の中心に、複雑な魔術陣が展開されている。


無数の管が、中央の“それ”へと繋がっていた。


培養槽の中。


黒い肉塊が、ゆっくりと脈打っている。


闇核変異体・第二号。


まだ、目は開いていない。


だが、内部では何かが動いている。


ラグナは、その前に立っていた。


「影は前座だ」


低い声で言う。


「人間どもが、勝てる気になった頃合いで落とす」


影の主の気配が、背後で揺れる。


「光にぶつける」


ラグナは、口角を上げた。


「……上等だ」


培養槽の内部で、肉塊が僅かに痙攣する。


何かが、軋む。


拒絶するような、微かな震え。


ラグナは、それを見て目を細めた。


「完璧じゃなくてもいい」


「壊せれば、それでいい」


王都の夜。


雲が、ゆっくりと流れていく。


街は、静かだ。


静かすぎる。


ユウは、ベッドの上で目を閉じる。


眠れない。


胸の奥で、感じるはずの鼓動がない。


それが、何よりも不気味だった。


人間側は、まだ猶予があると思っている。


だが――


敵側では、すでに準備が整いつつある。


二つの認識は、噛み合わないまま。


嵐は、もうすぐそこまで来ていた。

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