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幼馴染の聖女が王都へ行ってしまったので、最弱スキルの俺は絶対に迎えに行くと誓った。──そして俺は世界最強の拳を手に入れる  作者: 海鳴雫


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第179話 認識される光

西区の簡易治療所は、重い空気に包まれていた。


血の匂いと、薬草の匂い。

うめき声と、押し殺した呻き。


勝った。


確かに勝った。


だが、その言葉が持つ軽さを、ここにいる誰も信じていなかった。


ユウは、長椅子に腰を下ろし、包帯を巻かれていた。


大きな外傷はない。

打撲と、筋肉の損傷。


それでも、身体は鉛のように重い。


拳を握ろうとすると、指先が僅かに震える。


(……情けないな)


自分で、自分を殴りたくなる。


第三段階の片鱗。


確かに、触れた。


だが、触れただけだ。


使えない。


制御できない。


それが、現実だった。


少し離れた場所で、騎士団の兵士たちが小声で話している。


「……見たか?」


「拳だけで、影を潰してた」


「魔法も無しだぞ」


「……あれ、人間か?」


誰も笑っていない。


冗談の口調ではなかった。


畏怖と、困惑と、ほんの僅かな恐怖。


それが、混じっている。


ギルド本部。


代表の前に、報告書が並ぶ。


・ユウ・アークライト、自発的に出撃

・影五体を主力として撃破

・第三段階と推測される挙動を一瞬確認

・持続不可、強い反動あり


代表は、ゆっくりと紙を置いた。


「……やはり、選んだか」


声には、喜びはない。


あるのは、重さだけだ。


守ると決めた存在が、

戦場に立った。


それが意味するのは、

“もう後戻りできない”という事実だった。


カレンは、受付に立ちながら、落ち着かなかった。


依頼を出しに来た冒険者が、ひそひそと話す。


「光の拳の冒険者、知ってるか?」


「影を殴り潰したって」


「名前は……ユウ、だったか」


カレンは、何も言わない。


言えない。


胸の奥が、きゅっと締め付けられる。


(……象徴になり始めてる)


それが、怖かった。


治療所。


ユウは、天井を見つめていた。


(もっと早く出ていれば)


(もっと、ちゃんと使えれば)


考えても、意味はない。


分かっている。


それでも、思ってしまう。


そこへ、レオが来た。


肩に包帯を巻きながら、ユウの隣に座る。


「……一人で背負うな」


ユウは、視線を向けない。


「背負うつもりはない」


少し間を置いて。


「……でも、逃げない」


レオは、それ以上何も言わなかった。


ただ、隣に座り続ける。


闇の深層。


ラグナは、歪んだ笑みを浮かべていた。


「出てきたな、光」


影の主の気配が、静かに揺れる。


「予定通りだ」


ラグナが、低く言う。


「次は……影じゃ足りんか」


「足りん」


影の主は、即答した。


「“本命”を用意する」


具体名は、出ない。


だが、空気だけで十分だった。


王都の夜空。


雲が、ゆっくりと流れていく。


ユウは、治療所の外に出て、空を見上げた。


胸の奥で、光核が静かに、深く脈打つ。


理由は分からない。


だが、分かることが一つだけある。


(……近い)


何が、とは言えない。


それでも。


次の段階が、すぐそこまで来ている。

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