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幼馴染の聖女が王都へ行ってしまったので、最弱スキルの俺は絶対に迎えに行くと誓った。──そして俺は世界最強の拳を手に入れる  作者: 海鳴雫


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第178話 自分で選んだ一歩

夕暮れが、王都を赤く染めていた。


昼の異変から、時間はそれほど経っていない。

だが、街の空気はすでに限界に近づいていた。


騎士団の詰所では、次々と報告が飛び交う。


「西区、再び影の発現!」


「数が増えています!」


「冒険者部隊、疲労が深刻です!」


夜になる前から、この状況。


誰の目にも明らかだった。


――このままでは、持たない。


ギルド本部。


代表は、机の上の地図を見つめていた。


赤い印が、増えている。


どれも致命的ではない。

だが、確実に街を削っている。


(……楽になる方法はある)


ユウを出せばいい。


それだけで、多くは解決するだろう。


だが。


代表は、ゆっくりと首を振る。


「……命令は出さない」


側にいた幹部が、静かに頷いた。


「彼が選ぶなら、止めない」


「だが、使うことはしない」


それが、ギルドの答えだった。


王都の一角。


ユウは、倉庫の裏で立ち止まっていた。


拳を、強く握る。


指の感覚を確かめるように、開いて、また握る。


胸の奥で、光核が静かに脈打つ。


怖い。


正直な気持ちだった。


戦場に行けば、傷つく。

下手をすれば、死ぬ。


それでも。


(……行く)


誰かに言われたからじゃない。


自分で、決めた。


ユウは、ゆっくりと息を吐いた。


路地の奥から、レオが現れる。


顔には、すでに疲労の色が浮かんでいた。


「……行くのか」


ユウは、頷く。


「最初は……俺一人で行く」


レオの眉が、僅かに動く。


「危ないぞ」


「分かってる」


ユウは、目を逸らさずに言う。


「どこまで制御できるか、まだ分からない」


「巻き込みたくない」


短い沈黙。


やがて、レオは低く言った。


「……生きて戻れ」


それ以上、何も言わなかった。


ユウは、小さく頷く。


ギルドの門を、ユウは一人でくぐった。


止める声はない。


命令もない。


ただ、夜に向かう街が広がっている。


西区。


崩れかけた陣形の中で、騎士団と冒険者が戦っていた。


影は、五体。


黒い靄がうねり、触れるだけで心を削る。


「くそっ……!」


剣が弾かれ、魔法が霧散する。


そこへ。


ユウが、踏み込んだ。


一歩。


地面が、僅かに沈む。


次の瞬間。


ユウの拳が、影を貫いた。


音は小さい。


だが、衝撃は重い。


影の胴体が歪み、霧が大きく散る。


「な……」


誰かが、声を失う。


ユウは、止まらない。


右拳。

左拳。


踏み込み、打ち抜き、かわす。


第二段階の身体強化。


速さも、重さも、周囲とは次元が違う。


だが、数が多い。


背後から、別の影が迫る。


ユウは振り向きざまに殴る。


だが、衝撃が完全には通らない。


「……っ」


押し返される。


胸の奥で、光核が強く鳴る。


使え。


そう囁かれている気がした。


一瞬。


ユウの視界が、白く染まる。


身体が、軽くなる。


踏み込んだ一歩が、空間を歪ませる。


拳が振るわれる前に、影が潰れる。


別次元の動き。


騎士団も、冒険者も、言葉を失う。


だが、続かない。


強烈な脱力感。


ユウは、片膝をついた。


「……まだ、だ」


息が荒い。


第三段階。


確かに、そこにある。


だが、制御できない。


ユウは、歯を食いしばり、立ち上がる。


第二段階に戻す。


それでも、前に出る。


騎士団が、立て直す。


冒険者が、陣形を組み直す。


ユウを中心に、戦線が整う。


数分後。


最後の影が、霧となって消えた。


完全勝利とは言えない。


だが――


街は、守られた。


重い沈黙の中。


誰かが、呟く。


「……ユウだよな?」


ざわめきが広がる。


だが、歓声はない。


皆、疲れ切っていた。


ユウは、拳を見つめる。


まだ、足りない。


でも。


もう、逃げない。


胸の奥で、光核が静かに脈打つ。


本当の制御は――


ここからだ。

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