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幼馴染の聖女が王都へ行ってしまったので、最弱スキルの俺は絶対に迎えに行くと誓った。──そして俺は世界最強の拳を手に入れる  作者: 海鳴雫


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第172話 名を伏せた一歩

夜は、まだ終わっていなかった。


王都の外縁、灯りがまばらになる区域。

巡回の足音が遠のき、人の気配が薄くなる場所で、ユウは足を止めた。


(……ここだ)


空気が、わずかに重い。

胸の奥で、光核が小さく脈打つ。


強くはない。

戦えと急かすような衝動でもない。


ただ、

「見過ごすな」と告げてくる。


ユウは、深く息を吸った。


(大きく動く必要はない)


(確かめるだけでいい)


背中に視線を感じる気がして、振り返る。

だが、誰もいない。


ギルドからの命令はない。

同行者もいない。


それでいい。


今夜は――

自分で決めた一歩を、

自分で踏み出す。


路地の奥で、何かが揺れた。


人影のようで、人ではない。

輪郭が曖昧で、存在そのものが薄い。


影の残滓。


(……来たか)


ユウは、拳を握る。


力を引き出す必要はない。

ただ、身体を前に出す。


影は、ユウに気づいた瞬間、形を歪めた。


敵意というより、

反射に近い動き。


距離が、消える。


ユウは、踏み込んだ。


衝撃は、最小限。


拳に、余計な力は込めない。

身体の軸だけを整え、

光核の鼓動に、そっと重ねる。


「……っ」


拳が、影を捉えた瞬間、

空気が震えた。


爆発は起きない。

光も、溢れない。


ただ、

影が“ほどける”。


ユウは、すぐに距離を取った。


追撃しない。

深追いもしない。


影は、地面に溶けるように消え、

その場には、何も残らなかった。


(……これでいい)


胸の奥で、光核が静かに応える。


第三段階の兆しは、

まだ遠い。


だが――

力は、暴れていない。


(制御……できてる)


そう実感した瞬間、

背後で小さな声がした。


「……今の」


路地の入り口に、

巡回中の冒険者が立っている。


驚きと警戒が混じった視線。


ユウは、名乗らない。


「異常は、もうない」


それだけを告げて、

その場を離れた。


歩きながら、

ユウは自分の手を見つめる。


震えていない。

疲労も、ほとんどない。


(……大丈夫だ)


(まだ、行ける)


それは、

自分を追い立てる声ではなかった。


“選べる”という感覚。


遠くで、鐘の音が鳴る。


警戒を知らせる音。

だが、恐慌ではない。


王都は、まだ耐えている。


ギルドの屋根が見えたところで、

ユウは立ち止まった。


(報告は……明日でいい)


今夜は、

英雄になる必要はない。


ただ、

選んだ一歩を、

確かめられた。


それで十分だった。


光核の鼓動は、穏やかだった。


だが、その奥で――

確かに、何かが“次”を待っている。


ユウは、それを無理に覗こうとはしない。


(……焦らない)


(次に進む時は、

 ちゃんと選ぶ)


そう心に決めて、

ユウは静かに歩き出した。


夜は、まだ続く。


だが、

名を伏せた一歩は、

確かに刻まれた。

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