第1話 選定の刻
村の中央にそびえる神木の根元で、十歳になった子どもたちが一列に並んでいた。今日は――運命を決める「選定の儀」の日。
その列の中に、ユウ・アークライトの姿がある。小柄で、特別なところなど何もない少年。けれど、その目だけは強かった。横に並ぶ銀髪の少女を見つめている。
リナ・セラフィス。幼馴染にして、ユウの大切な人だ。
「ユウ、緊張してるの?」
「……少しな。でも、大丈夫。リナが隣にいるから」
ユウが照れくさそうにそっぽを向くと、リナはくすっと笑う。
「どんなスキルでも、ユウはユウだよ。私は、ずっと一緒にいるからね」
「……ああ。俺だって、同じだ」
幼いながらも固く手を握り合う二人。
だが、それが変わってしまうことを、この時のユウはまだ知らない。
祈りの歌が響き、神官が祝詞を読み上げる。儀式が始まった。
「ではまず――リナ・セラフィス!」
リナが前へ歩み出る。白い儀式服の裾がふわりと揺れる。
神木が眩い光を放ち、祝福の風が吹いた。
『選定――聖女』
神官の声が震えた。
「え……?」
リナ自身も目を瞬かせる。
聖女。それは国が守護する最高位スキル。
世界で数十年に一度現れるかどうか――そんな神話の存在。
ざわめき。歓声。跪く者まで現れる。
「セラフィス家の血が、ついに……!」
「聖女様を王都へ! すぐに護衛を!」
リナの手が離れた。周囲の大人たちが、彼女を包み込んでしまう。
「ユウ……!」
リナは振り向いた。その瞳は、助けを求めていた。
「ユウ・アークライト!」
次に呼ばれたのは、ユウ。だが――。
光は弱く、風も起きない。
神木は、ほとんど反応しなかった。
『選定――拳撃強化(弱)』
嘲りの声が響く。
「し、しょぼ……!」
「殴るだけ? しかも“弱”って……」
「聖女様の幼馴染が、これかよ!」
ユウは歯を食いしばった。
それでも、リナだけは違った。
「ユウは……ユウのままで強いんだよ!」
彼女は必死にユウへ手を伸ばすが、兵士に遮られる。
「離れてください、聖女様。あなたは王都へ向かわれます。この村に留まることは許されない」
「いや……嫌だ! ユウと一緒がいい! お願い、連れて行って!」
「駄目だ! 聖女は国の宝だ! 一般人などと……!」
その言葉に、ユウの拳が震えた。
リナは必死に叫ぶ。
「ユウ! 絶対迎えに来て……! 待ってるから!」
その声に――ユウは迷わず頷いた。
「ああ……! 行くよ! 迎えに行く!」
「約束だよ!」
「約束だ!」
それが二人の世界すべてだった。
馬車が走り去り、リナの姿が遠ざかる。
ユウは、消えゆくその背中に向けて拳を握り締めた。
弱くたっていい。嘲笑われたって構わない。
ただ、一つだけ心に誓う。
「俺は、リナを守れる強さを手に入れる――!」
運命は、静かに動き始めていた。




