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選択
――でも。
このまま逃げれば、父さんを置き去りにする。
二度と会えないかもしれない。
いや、きっと――死んでしまう。
けれど、ここに残れば。
俺だけじゃない。
桜も、和政も……郁美も。
誰一人、無事では済まないかもしれない。
選べない。
どちらを選んでも、何かを失う。
胸の奥が、ぎしりと軋む音を立てた。
「おいおい〜……父親を見捨てるつもりかよ〜?
ひどい息子だな〜、血も涙もねぇ〜な〜」
嘲るような声が、耳にまとわりつく。
「俺は……いい……!
は……やく……に……げろ……達也ぁ……!!」
太史は、かすれた声を振り絞る。
「うるせぇって言ってんだろ〜?」
次の瞬間――
「ドガッ!」
鈍く、嫌な音が響いた。
「――ゴフッ……!」
腹部に叩き込まれた蹴りに、太史の身体が折れ曲がる。
口元から、抑えきれない血が零れ落ちた。
「父さん!!」
叫び声が、獄門の空に空虚に弾かれる。
男は太史を見下ろしながら、心底楽しそうに口角を吊り上げた。




