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決断
「……逃げよう!!」
その言葉に、桜も唇を噛みしめる。
目には涙を溜めたまま、それでも――必死に思考を巡らせている。
時間は、もう残されていない。
「……いや……逃げるって……
じゃあ……父さんは……」
言葉が、喉の奥で絡まって前に出てこない。
「今のままじゃ……達也くんまで殺されるかもしれない!」
和政は声を荒げた。
必死さが、そのまま声に滲んでいる。
「あいつは……底が知れない!
絶対に……普通じゃない!
ここにいたら……本当に全員やられる……!」
「……でも……」
頭では、理解している。
理屈は、何度も俺に正解を突きつけてくる。
それでも――心が、どうしても首を縦に振ろうとしなかった。
「お願い、達也……!」
桜が、縋るように俺の袖を掴む。
「今は逃げよう……!
元の世界に戻れば……警察だっているし……
あいつを止める方法だって……きっと考えられる……!」
震える声だった。
それでも、必死に未来を信じようとしている声だった。




