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気色悪
俺は反射的に、郁美の肩に手を添え、
倒れないよう支えた。
――その瞬間。
男の表情が、露骨に歪んだ。
「おい」
低く、地を這うような声。
「そこのクソ男……
郁美から、離れろ」
次の瞬間、怒声が炸裂した。
「そいつは俺のもんだ!!
な〜に、人のもんに勝手に触ってんだ!!
殺すぞ!!!」
背筋が凍りつく。
「郁美は――」
俺は一歩前に出て、叫び返す。
「郁美は、お前のものじゃない!!
郁美は、郁美自身のものだ!!」
その言葉が、男の逆鱗に触れた。
「うるせぇぇぇ!!」
唾を飛ばし、狂ったように叫ぶ。
「郁美は俺のもんだ!!
俺が育てた!!
養った!!
だから――俺のもんなんだよぉ!!」
そして、決定的な一言が叩きつけられる。
「大人になったら……
結婚するって……
もう決めてんだよぉぉぉ!!!」
――ゾッ。
空気が、一気に冷え切った。




