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手加減
父は、短く息を整えると、
意を決したように一歩踏み出した。
「くらえ!オラっ!!」
そして、相手の腹部めがけて蹴りを放つ。
だが――
両腕を失った身体では、
踏み込みも、体重移動もままならない。
蹴りは浅く、力なく、
まるで拒まれるかのように弾かれた。
「おいおい〜」
男は微塵も動じず、薄く笑う。
「手加減してくれなくていいんだぞ〜?」
その声は、嘲笑ですらなかった。
ただの余興を眺める、退屈そうな観客の声だった。
――ダメだ。
胸の奥が冷え切る。
何をしても、この戦いは覆らない。
力も、条件も、――
ここにいる誰もそのことを理解し、
静寂に暮れる。
すると、郁美が隣で、
絞り出すように叫んだ。
「お父さん……お願いします!
達也くんのお父さんに……
ひどいことをしないでください!」
その声は震え、
言葉の端々がかすれていた。
普段はおとなしく、臆病で、
人の顔色ばかり窺っていた郁美が――
恐怖を押し殺し、
必死に義父へ向き合っている。
「ん〜?」
男は首を傾げ、
ねっとりとした笑みを浮かべる。
「なんだおめ〜……
いつから、そんなでけ〜口叩くようになったんだ〜?」
その一言で、郁美の身体がびくりと跳ねた。
震えはさらに激しくなり、
立っているのもやっとだ。




