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無意味
だが、相手は一八〇センチを優に超える大男だ。
先ほどの文とは違う。
石ころ程度で、どれほどの意味があるというのか。
――それでも。
やらないよりは、何もしないよりは、マシだ。
俺は地面に転がっていた石を掴み、
力任せに男へ向かって投げつけた。
コツン、と鈍い音。
当たった。
――だが、それだけだった。
「へ〜……」
男は首を傾げ、妙に感心したような声を出す。
「石は通すんだね〜。
へえ〜、初めて知ったよ〜」
痛がる素振りすらない。
眉一つ動かさず、まるで実験結果を確認したかのような口調。
その一言で、俺は悟ってしまった。
――効いていない。
――毛ほども、通じていない。
胸の奥が、音を立てて崩れ落ちる。
わずかな希望が、完全に踏み潰された瞬間だった。
『先行、遠坂太史。残り三〇秒』
冷酷な宣告が、頭の内側に響く。
「……制限時間まで、あるのか……」
俺は思わず下唇を噛み締めた。
考えろ。何かないのか。
――だが、活路を探す余裕すら、もう残されていない。




