89/115
怒り
「お〜、いいぜ〜。
お前の父親を殺した後で、ちゃんと相手してやるよ〜」
男は楽しげに肩を揺らし、
舌なめずりするように笑った。
「達也くんっ!!
……一回、落ち着いて!!」
和政の声が、遠くから聞こえるような錯覚に陥る。
「落ち着いてなんか……
落ち着いてなんか…..いられるかよ!!」
振り返った瞬間、
胸の奥で何かが弾けた。
「母さんを……
母さんを……殺されたんだぞ……!!」
声が震え、言葉の最後は掠れて消える。
次の瞬間、気づけば俺は和政の胸ぐらを掴んでいた。
「お前に……わかるのかよ!!
この気持ちが!!」
指先に、布越しの体温が伝わる。
怒りの矛先が、守ろうとしてくれる相手にすら向いてしまうほど、
俺は怒りではち切れそうだった。
「達也くん……!」
和政は抵抗せず、
ただ必死に俺の目を見ていた。
「今の状況を……
ちゃんと考えて!!」
和政の声は、叫びに近かった。
俺の両肩を掴み、強く揺さぶる。
「達也くんのお母さんも……
お父さんだって……もう……」
言葉が詰まり、
和政は一瞬だけ視線を逸らした。
それでも、歯を食いしばって続ける。
「……あいつに、やられそうなんだよ!!
どう考えたって、あいつは異常だ!
普通じゃない!!」
和政の目は、恐怖と焦りで揺れていた。




