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え....
「も〜り上がってるところ悪いんだけどさ〜」
その場の空気を、冗談みたいな声が切り裂いた。
あまりにも場違いで、あまりにも軽い。
「君の母さんさ〜……もう、死んでるよ?」
「……え?」
意味が、言葉として脳に届かない。
音だけが、宙に浮かんでいる感覚だった。
「えへへへへへへへへへへへ!!」
男は喉を鳴らして笑った。
楽しそうに、心底嬉しそうに。
「な〜んかさ、最初に二人を見つけた時にさ〜
まずはこいつの“目の前で”奥さんをぶち殺したくなっちゃったんだよね〜」
指先で、父を示す。
「ほら、どんな顔すんのかな〜って。
絶望とか? 泣き叫ぶ感じ?…..」
世界が、ぐらりと傾いた。
「……待て」
喉が、ひくりと鳴る。
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!!!」
声が、裂けた。
「……お前……今、なんて言った……?」
男は首を傾げ、わざとらしく考える素振りを見せてから、
「あ〜……だからさ」
にぃ、と口角を吊り上げる。
「君のママはもうとっくに死んでま〜ちゅ。」
その笑みは、
ただ、こちらの心を踏みにじるためだけに浮かべている笑顔だった。




