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激昂
「不倫だろうがッ!!
このクソ虫がぁ!!」
次の瞬間、郁美の父の声色が一変した。
ねっとりとした調子は消え、
堰を切ったような怒声が辺りに響き渡る。
「最近やけに帰りが遅ぇからよ!
怪しいと思って後をつけたんだ!」
一歩、また一歩と、
俺の父に詰め寄る。
「そしたらどうだ?
仲良さそうに二人でラブホから出てきやがって!」
唾を飛ばしながら、嘲るように叫ぶ。
「別れ際に、チューまでしてなぁ!」
「……いや……」
俺の父は、
それ以上、何も言えなかった。
その沈黙が、
否定よりも、弁解よりも、
残酷な答えだった。
「……マジ……かよ……」
喉の奥から、擦れた声が漏れた。
信じたくない、
色んな感情が、胸の奥で絡まり合う。
「……そ、そんな……
よりにもよって……
な、なんで……達也くんのお父さんと……」
郁美は思わず口元を押さえ、言葉を失っていた。
その瞳は揺れていて、
大きな失望感を孕んでいた。




