父の罪
「お、お父……さん……
しゅ、出張って……
い、いってません……で、でしたか……?」
郁美の声は震え、
言葉がうまく形にならない。
「あ〜……ハハハ。
そんなこと、言ったよ〜な気もするな〜」
男は曖昧に笑い、肩をすくめる。
「ま〜、いいじゃんか。
それよりさ〜、郁美〜
お前、両腕どこいった〜
誰かにやられたのか〜?」
その瞬間、男の口元が歪んだ。
「誰かの恨みを買ったとか〜?
こいつみたいに〜」
軽い調子で、
まるで世間話でもするかのように笑った義父を見た瞬間、
胸の奥にざらりとした違和感が広がった。
血が繋がっていないとはいえ、
目の前にいるのは“娘”のはずだ。
その両腕が失われているというのに、
どうしてこの男は、
こんなにも軽い声音でいられるのか。
俺の背筋を、
冷たいものが静かに這い上がった。
「もう両目と両腕は奪ったからさ。
あとは――両足だけ〜」
間延びした声のあと、
「ハッハッハ〜!」と、
場違いなほど陽気な笑い声が響いた。
俺は、その愉快そうに笑う男の姿を見て、
背骨の奥を冷たいものが這い上がってくるのを感じた。
本能が、こいつは危険だと訴えていた。
「な〜、郁美。聞いてくれよ〜」
男――郁美の父は、
親しげな声で語りかけた。
「こいつなぁ、悪いやつなんだよ。
お前のママと不倫してたんだぞ〜」
その言葉が、
空気を切り裂いた。
「……え?」
郁美が、小さく息を詰まらせる。
「……本当なの? 父さん……」
俺は震える声で父に問いかけた。
「い、いや……不倫っていうかだな……
相談に乗っていたというか……その……」
視線を泳がせ、言葉を濁す。




