幼い頃
「……だい……じょうぶ、よね……?」
桜はかすれた声で言う。
「……消えたり……しない……よね……?」
その瞳には、ついさっき目の前で起きた“あの光景”が、
まだ脳裏に焼き付いたままだった。
桜は、今にも泣き出しそうな顔をしている。
その表情は、幼い頃に何度も見てきたものだった。
顔立ちは大人びて、昔とは比べものにならないほど綺麗になったのに――
泣きそうになると、口元がわずかに歪む癖だけは、あの頃のままだ。
気づけば、俺は何の躊躇もなく桜の頭に手を置いていた。
そして桜もまた、抵抗することなく、まるで当たり前のように俺の胸に顔を預けてくる。
その瞬間、遠ざかっていたはずの日々の記憶が、
堰を切ったように頭の中へ流れ込んできた。
「……約束……したから……」
思わず、口をついて出た言葉だった。
「……え……?」
桜が顔を上げ、上目づかいで俺を不思議そうに見つめる。
「あ……いや……何でもない……」
自分でも何を言ったのかわからなくなり、慌てて言葉を濁す。
その瞬間、はっとして周囲の視線に気づいた。
和政と、郁美。
二人にこの距離感を見られていることを思い出し、俺は一歩、後ろへ下がる。
「と、とにかく……大丈夫だから。安心してくれ」
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