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梅の儀〜決着〜
「……もういい……もういいわ……もういいわよ……」
文は力なく首を振り、涙を流し、かすれた声を落とした。
「……あんたの勝ちでいい。
……この戦い、私の負けよ」
「文……ちゃん!?」
郁美が思わず叫ぶ。
だが文はもう、こちらをまともに見ていなかった。
「ごめ゛ん゛ね゛……い゛く゛み゛……」
嗚咽混じりの声で、文は確かに謝っていた。
それは怒りでも呪いでもなく、
取り返しのつかないところまで来てしまった人間の、
遅すぎた言葉だった。
次の瞬間――
頭の奥に、無機質な声が響く。
『決着』
『堂安文、試合放棄』
『梅の儀――勝者、松野郁美』
「……っ!」
桜が息を呑む。
その声を聞いた俺は、嫌な予感しかしなかった。
ドスッ。
鈍く、湿った音がして、
文の胴体が力なく地面に落ちた。
「……え……?」
郁美の声が震える。
文は、もう立っていなかった。
両足は跡形もなく消え、
その顔からは――両目も失われていた。
「なにも……見えない……」
虚空に向かって、声を発する。
「……暗い……こわい……
なにも見えない……?」
「やめろ……」
和政が、歯を食いしばるように呟く。




