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梅の儀④
地面に伏したまま、文が泣き叫ぶ。
喉を引き裂くような、必死の声。
「おでがい……いがないで……郁美……
謝る……から……私が悪がったから……」
その声に、
郁美の足が、ふっと緩んだ。
立ち止まり、振り返る。
「郁美ちゃん、聞くな! 早くゴールしろ!」
「郁美、お願い、走って!」
「郁美ちゃん!」
重なる叫び。
背中を押す声と、引き止める声。
郁美は俺たちと、
地面に崩れ落ちた文を、交互に見つめた。
その顔には、
勝利でも、恐怖でもない。
誰かを切り捨てるという選択を、
どうしても出来ない郁美の苦しさだけが浮かんでいた。
そして――
あろうことか、郁美はゴールに背を向けた。
「「「郁美!!ちゃん!!」」」
重なる叫びも、
必死の制止も、
今の郁美の耳には、もう届いていない。
彼女はゆっくりと、
しかし迷いのない足取りで文の方へ歩き出す。
地面に崩れ落ちた文のそばに膝をつき、
視線を落として、その顔を覗き込んだ。
震える身体。
歪んだ呼吸。




