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梅の儀③
「走れ、郁美!」
一拍遅れて、郁美も走り出す。
しかし叫んだ時には、すでに遅かった。
二人の間には、目測でもわかるほどの差――およそ二メートル。
しかも、その距離は縮まるどころか、じわじわと広がっていく。
このままじゃ、郁美が負ける。
焦りに突き動かされ、俺は足元の石を掴んで投げた。
だが、走っている相手に狙いを定めるほどの投擲技術なんて、
俺は持ち合わせていなかった。
石は虚しく空を切り、
何の役にも立たず、地面に乾いた音を立てて転がった。
――もう、ダメか。
そう思った瞬間だった。
文の走りが、唐突に崩れた。
何かに躓いたように足がもつれ、
次の一歩が出ない。
両腕のない身体では、
バランスを立て直す術もない。
体は前のめりに傾き、
そのまま、無様な音を立てて地面に叩きつけられた。
「あっ……」
その隙に、郁美は文を追い越し、
ゴールは、もう目の前だった。
数歩。あと、ほんの数歩。
「ま”っで!!!」




