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フラッシュ暗算④
「……あっ!」
桜もついに気づいたらしい。
短く息を呑む音が、やけに大きく聞こえた。
――こいつ……!
頭に血が上るのを感じた瞬間、俺は足元に転がっていた小さな石を掴んでいた。
理屈よりも先に体が動き、そのまま勢いよく文に向かって投げつける。
空気を切る音が、張り詰めた場に鋭く響いた。
「いたっ!……何すんのよ!」
俺は文に石が命中したことよりも、この見えない壁を石が突き抜けたことに驚いていた。
この壁は生身の俺たちは通さないが、獄門の中にある物質は通すらしい。
桜と和政も驚いた様子でこちらを見つめている。
だが、その隙を突くように――
文はまた、わずかに体を傾け、郁美のボードを盗み見ようとした。
「……っ!」
俺は反射的に、さっきと同じように石を掴んで投げた。
「ごめん、桜!」
声を張り上げる。
「本当は女子にこんなことするの、ダメだって分かってるけど、止めないと!」
「い、いいわ!」
桜も歯を食いしばって頷く。
「しょうがないもの!」
そして和政も俺に加わり、文に石を投げつけ始めた。
カン、コツ、と乾いた音が続けざまに響く。
ひっきりなしに飛んでくる石に、文はついに両腕で顔を覆い、防御に徹するしかなくなった。




